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HMW大学セミナーレポート#7「『”食べる”にとことん向き合う』地域密着型コミュニティスペース『カムカムスワロー』の取り組み」

平成医療福祉グループは主に職員の視野の拡大を目的とし、オンラインセミナー「HMW大学」を開催しています。今回は2024年12月6日(金)に開催された、第7回目のセミナーレポートをお届けします!

「HMW大学」とは
平成医療福祉グループでは、医療福祉の優れた専門職になるためには、専門領域にとどまらず社会全体を見据え、見識を広げることが重要だと考えています。
そのため、医療福祉分野以外にもさまざまな分野で活躍する専門家をグループ内外から招き、今後の業務における意識改革につなげるための学びの場としてオンラインセミナー「HMW大学」を始めました。
このオンラインセミナーは、グループ職員のみならず、誰でも無料で参加できます。

今回のHMW大学は初のグループ外への出張版でした。 地域医療と食をテーマにしたユニークな取り組みで注目を集めている近石病院(岐阜県岐阜市)に隣接する地域密着型のコミュニケーションスペース「カムカムスワロー」からセミナーをお届け!
当グループの職員がお邪魔して、カムカムスワローの「食」を通した地域のコミュニティスペースとしてのさまざまな取り組み、そして、地域における病院・医療の在り方についてお話を伺いました。


地域密着型コミュニティスペース「カムカムスワロー」について
「カムカムスワロー」は、岐阜市に所在する近石病院に隣接された、医療の相談窓口「認定栄養ケアステーションちかいし」をはじめ、カフェ、シェアキッチン、イベント会場としても利用できる地域密着型のコミュニティスペースです。
近石病院は125床の病院内に歯科・口腔外科があり、外来・入院患者さんの歯科治療と摂食嚥下の診療、在宅患者の訪問歯科診療を行っています。
近石病院では「チーム医療で”食べる”にとことん向き合う」をコンセプトに、入院中だけでなく、退院後も在宅や施設へ訪問し、診療を継続できるように取り組んでおり、その一環として「カムカムスワロー」を設立しました。
病気発症を機に食形態が変化してしまった患者さんが在宅復帰を果たしても外食の機会を失って自宅にこもりがちになり、動かないことでさらに飲み込みの機能が落ち、やがて全身の機能が落ちてしまうことを食い止めるために、外食の機会が重要だと考え、設立に至りました。

近石病院について

カムカムスワローについて


「カムカム」は、「噛(か)む」と「COME(来る)」の意味をかけ合わせているとのこと。「スワロー(SWALLOW)」は、「ツバメ」とともに「のみ込む」の意味を持ちます。これらを組み合わせて、「カムカムスワロー」と名付けたそうです。


平成医療福祉グループと近石病院のつながりは、当グループの世田谷記念病院が参加・受賞を果たした「病院広報アワード2024」(※)での出会いがきっかけです。このアワードで手老さん(※)たちスタッフが近石さんの発表を聴き、「医療と地域をつなぐ」想いに、グループとの共通点を感じてお声がけをし、交流が始まりました。

※「病院広報アワード2024」とスタッフについて、下記を参照ください。


セミナーレポート第7回 

2024年12月6日(金)開催

話し手①:近石 壮登 (ちかいし・まさと)(医療法人社団登豊会近石病院 歯科・口腔外科 歯科医師/カムカムスワロー 代表)

日本歯科大学卒業。卒業後は、藤田医科大学にて口腔外科、摂食・嚥下リハビリテーションの診療に従事した後、2021年4月から実家である近石病院の歯科・口腔外科へ。病院内および施設や患者宅での在宅診療で活躍するほか、「カムカムスワロー」を中心に地域でも積極的に活動中。


話し手②:蛭牟田 誠 (ひるむた・まこと)
(医療法人社団登豊会近石病院 歯科・口腔外科 言語聴覚士/カムカムスワロー マネージャー)

「カムカムスワロー」で言語聴覚士として医療的ケア児をはじめ嚥下障害のある方、そのご家族の方など、幅広い方々と接するだけでなく、介護予防教室の企画・運営、新商品開発、研究、SNS運用、メディア対応などの広報企画、経営企画など多岐に渡り活動中。


話し手③:天辰 優太 (あまたつ・ゆうた)
(平成医療福祉グループ 副代表/訪問事業部 部長/経営企画医師)


話し手④:堤 亮介(つつみ・りょうすけ)
(平成医療福祉グループ 栄養部 部長)


モデレーター:手老 航一(てろう・こういち)
(平成医療福祉グループ 世田谷記念病院 事務長)


嚥下障害がある人も「食べる楽しみ」を失わないように

セミナーは、近石病院についての紹介から始まりました。カムカムスワローは「食べるを通じて、医療と地域をつなぐ場」をコンセプトに掲げています。設立の背景には、近石さんが訪問診療での経験を通じ、嚥下障害がある患者さんが、見た目があまりおいしくなさそうなペースト食を口にするところを見て、「食べる楽しみ」を支える場の必要性を痛感したからです。

近石さんは「今、100万人を超えると言われる嚥下障害がある人も、外食を楽しめる場があったらQOLも上がるし、より幸せに過ごせるんじゃないかと思いました。そして、『誰もが食べることを諦めない社会を作りたい』という目標も持っています」と、取り組みの想いを語りました。

HMWスタッフから「まるでおしゃれなカフェみたい」というコメントが挙がった、素敵な内装。カムカムスワローの建物付近を通る人も、思わず足を止めるような魅力的な外観です。

地域とつながりながら嚥下食を広げる取り組み

カムカムスワローは、主に近石さんと蛭牟田さん、管理栄養士の淺井さんの3人で運営しています。取り組みは「嚥下食の提供が可能なカフェ」「セミナーイベントの開催」「食・栄養の相談」の三つの柱を掲げて行っています。

近石さんはカムカムスワローの具体的な取り組みを例を挙げて次のように伝えました。

まず、特別支援学校の修学旅行でランチ提供を行った取り組みを紹介。事前に管理栄養士が学校の先生から生徒の食形態のヒアリングを行ったうえで食事を用意しました。先生たちからは、生徒と「ゆったりとランチを楽しめた」と高評価が得られたとのこと。この取り組みは障がいの有無に関係なく、誰もが同じ場所で食事を楽しめる「インクルーシブカフェ」として注目を集めています。

また、嚥下食をテーマにしたイベントや多職種連携による健康増進教室、がんカフェなど、多彩な活動も継続的に行っています。さらには、不定期で地域住民が集う「カムスワ夜会」や岐阜市内の飲食店との連携で嚥下食を広める取り組みも実施するほか、嚥下障害者向け旅行支援サービス「やわらかい旅行社」の活動も行い、注目を集めています。

そのほか、東京の高校や北海道の畜産ベンチャー企業と連携し、嚥下食や食品開発も推進中。高校生が嚥下食の認知度調査を行い、学会で発表するなど、新しい試みが続いています。

こうした取り組みを通じて、地域住民や企業、学生と連携し、食の楽しみを広げる共創の場作りを進めています。近石さんは、地域と連携することについて次のように述べました。

「こうした健やかな街やコミュニティを、地域の皆さんと一緒に作り上げていくことこそ、地域密着型の病院としての使命だと考えています」。

畜産ベンチャー企業と一緒に、家族みんなが「同じものを食べる喜び」が感じられるハンバーグやタンシチューなどの嚥下調整食の開発を進めているとのこと。

広報活動の工夫

カムカムスワローの広報を担当する言語聴覚士の蛭牟田さんからは、自分たちの取り組みを知ってもらうための広報活動の紹介がありました。

カムカムスワローは、開業から2年間で積極的な広報活動を展開し、多くのメディアに取り上げられることで認知度を高めました。特に、名古屋テレビの朝の番組で紹介されたことが来店者増加の大きな要因となりました。また、嚥下食の実演イベントを通じて、嚥下食の認知向上と話題作りを実施。こうしたイベントをメディアと連携させることで、継続的に情報発信を行いました。

また、受賞歴を活用したブランディングも進めています。(受賞歴:「2024年度グッドデザイン賞ベスト100」や「岐阜県ワーク・ライフ・バランス推進エクセレント企業」の認定など)受賞歴は、信頼性と価値を高める重要な要素となり、メディア露出を促進しました。現在(2024年12月6日時点)までに新聞18件、雑誌4件、テレビ5件、ウェブ14件と、多くのメディアに取り上げられています。

広報活動についての今後の目標を、蛭牟田さんは次のように述べました。
「まだ嚥下食自体の認知度が低いので、自分たちの活動を通して普及を進め、カムカムスワローのような場が全国に広がっていくといいなと思っています」。

言語聴覚士としても「言語聴覚士の可能性を広げたい」と話す蛭牟田さん。今後は海外で働くことも視野に入れているそうです。


HMWスタッフの声

近石さんと蛭牟田さんの話の後に、HMWの取り組みについても紹介を行い、堤さんと天辰さんがそれぞれ説明と感想を述べました。

堤さん「私たちのグループでも、近石さん達の考えと同じように、食事は単なる栄養補給ではなく、環境や関わり方まで含めて整えることが重要だと考えています。当グループでも統一メニューや嚥下調整食を導入し、食べる楽しみを支える取り組みを進めていますが、地域への展開や個別対応にはまだまだ課題があります。今日伺ったカムカムスワローさんの実践を参考にしながら、より多くの人が食事を楽しめる仕組みを考えていきたいと思います」

天辰さん「私は、『地域事業』の観点からお話ししますと、『地域事業』は、医療の枠を超えて患者さんのQOLを支える重要な取り組みです。当グループでも、世田谷記念病院が行う畑作業を通じた地域交流や、大内病院が実施する精神障がいがある人の居場所作り、また医療資源の乏しい地域でのクリニック開設など、多様な活動を進めています。これからの医療には、地域との連携がますます不可欠となり、どの病院でも必要になってくると実感しています。今日はその先駆者であるカムカムスワローさんのお話を伺うことができました。ぜひこれからの取り組みに生かしていきたいです」


カムカムスワロー嚥下食メニューの紹介

セミナーのなかでは、管理栄養士が手掛ける実際の嚥下食が紹介されました!

タラの白身を固めたものや、パンとシメジ、タマネギをゼリー状にしたパングラタン、卵をだしと混ぜてゲル化した卵焼き、とろみをつけた味噌汁など通常の食事に近い見た目や風味を保ちながら、嚥下障害のある方でも安心して食べられるよう工夫されています。

見た目と味の両立にこだわったメニューを目にして、堤さんは次のように感想を述べました。「タラの白身を固めたものには、ちゃんと焦げ目が入っています。ソフト食ってどうしても見た目がゼリーっぽくなってしまうのに、焦げ目があることで食欲をそそる見た目になる。こうした工夫に感動しました」。

カムカムスワローの嚥下食は、単に食べやすさを追求するだけでなく、「食事を楽しむ」という大切な要素を重視しています。そのため、食器の選定や提供時の温度管理にもこだわり、一般的な食事と同じ感覚で味わえるよう工夫がなされています。


患者支援から地域連携まで、広がる対話

セミナーの終盤には、登壇者とセミナー視聴者からの質問を交えたクロストークセッションが行われました。

「退院後の患者の食事支援はどのようにされていますか? カムカムスワローに通うこともあるのでしょうか」という視聴者からの質問には、近石さんが「嚥下機能検査の結果をもとに管理栄養士が個別指導を行い、外来患者には実際にカムカムスワローで食事をしながら指導することもある」と伝え、その後も定期的にフォローアップできる体制が整っていると回答。

「病院スタッフとカムカムスワローのスタッフは別配置ですか?」という質問には、患者の退院後の生活を見据えた支援を行っているため、スタッフが病院と施設を行き来する体制を取っていると回答しました。

また、視聴者から「地域との交流を深めるためのイベント開催が、とてもいい」というコメントが多く挙がりました。これについて天辰さんは「地域住民の方に気軽に訪れてもらうことにはハードルの高さもあると感じていますが、どのように進めているか教えてください」と質問しました。

近石さんは、単なる情報共有の場ではなく、住民同士が顔を合わせ、継続的なつながりを築くことを目的として実施している「ガヤガヤ会議」を例に内容を説明。「フリートーク形式」でゆるやかに行い、誰もが気軽に参加できる雰囲気を作り出している旨を話しました。さらに、岐阜市という立地の特性も影響しており、都会と地方の中間にある適度な規模の地域であるため、住民同士の関係性が築きやすい環境が整っていることにも言及しました。

最後の質問「カムカムスワローのリスク管理について」は、近石さんが次のように答えました。「嚥下障害のある方にも外食を楽しんでもらうため、同意書などは取っていません。ただ、誤嚥や窒息のリスクが無いわけではないため、病院隣接の施設として緊急対応が可能な体制を整えています。運営側も、安全と楽しさの両立に悩みながら工夫を重ねています」。

視聴者からは、このほかにも多くの質問が寄せられていました。
最後に手老さんより、平成医療福祉グループは、近石病院と同様に、今後も地域医療の発展と持続可能なコミュニティ作りに貢献し、より多くの人が安心して暮らせる社会の実現を目指していく旨を伝え、セミナーを終えました。


HMW大学は、今後も多彩なテーマのセミナーを開催していく予定です。次回開催については、またこの場でお伝えします。ぜひご参加ください!



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