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【ダイバーシティ&インクルージョン】推進室メンバーをインタビュー(前編)多様な背景を持つ職員へのサポートと取り組み

平成医療福祉グループは「じぶんを生きる を みんなのものに」をグループミッションとし、誰もがどんな時も、自分らしく生きられる社会の実現を目指しています。

その取り組みの一環として、多様性を尊重し、あらゆる差別のない組織作りを行うために「ダイバーシティ&インクルージョン」を推進しています。

グループ代表の直下に設置された「ダイバーシティ&インクルージョン推進室」では、各部門から集まったメンバーが、心理的安全性の向上や平等・公正を前提に、メンバーの多様性や幅広い価値観、経験を生かしながら取り組みを進めています。

今回、このダイバーシティ&インクルージョン推進室メンバーのインタビューを通じて、具体的な取り組みやメンバーの想いなどを、前・後編にわたってお届けします。

前編は「やさしい日本語就業規則」(※)と「障がい者雇用」の取り組みについてお伝えします!

※「やさしい日本語」とは、普段使われている言葉を、外国人にも伝わりやすく配慮した簡単な日本語のこと。


ダイバーシティ&インクルージョン宣言の詳細は、こちらをご覧ください。


ダイバーシティ&インクルージョン推進室について
ダイバーシティ&インクルージョン推進室(※)は2023年4月1日に発足。各課題に対し、順次各分野のチームを設置して取り組みを展開し、現段階では「SOGI / LGBTQ+」「障がい」「人種・国籍・言語」の課題解決に向けた取り組みを進めています。
※以降、「推進室」と表記


次の推進室メンバーにインタビュー!

法務部 部長代理 稲垣 光義(いながき・みつよし)さん
法務部主任 鈴木 礼子(すずき・れいこ)さん
人事部・大内病院(作業療法士・公認心理師) 松本 武士(まつもと・たけし)さん
人事部 黒澤 紗季(くろさわ・さき)さん。


「人種・国籍・言語」分野の取り組みとは?


ー「人種・国籍・言語」分野から伺います。今取り組んでいることを教えてください。

黒澤:現在、人事部の外国人採用担当メンバーと、私たち推進室のメンバーで「人種・国籍・言語チーム」を編成しています。主に外国籍の職員(※)や患者さん・利用者さんへの対応についての課題解決を図ることを目的にできたチームですが、結成後、まずはみんなで「今、何ができるか」を話し合いました。やるべきことはたくさん挙がりましたが、優先順位をつけて、「外国籍の職員が働きやすくなる取り組み」から着手することになりました。

※グループ全体でこれまで約600名が所属。EPA(経済連携協定)や特定技能、技能実習制度を活用した外国籍の職員が、看護師や介護福祉士、介護スタッフとして活躍中。国籍はインドネシア、ベトナム、フィリピン、ミャンマー、バングラデシュなど。(2024年12月時点)

人事部に所属する前は、グループ病院で理学療法士として勤めていた黒澤さん。現場での経験を人事部や推進室の取り組みで生かしながら、「誰もが働きやすい職場作り」に励んでいます。


ー取り組みを進める際に、現場の課題や情報をどのように収集しましたか。

松本:人事部のメンバーは、もともと現場職員とのやりとりが多く、そのなかで得た情報を日々蓄積しています。私自身も現場で直接話を聞く機会があるのですが、例えば、日本人職員と外国籍の職員の間で、文化的な背景の違いからお互いの常識が異なり、ちょっとした困りごとが起きている、という話をよく聞きます。

グループ病院で作業療法士・公認心理師として活躍しながら人事部に所属する松本さん。現在、大学院にも在籍し、セクシュアリティとメンタルヘルスをテーマとした研究を行っています。

黒澤:それから、人事部メンバーのなかには、日本で長く働いている外国籍の職員が所属しているので、来日した頃の「職場で困った体験談」などを話してもらい、意見ももらって、外国籍の職員の視点を理解するよう努めています。このほかにも、みんなで勉強を深めるため、「やさしい日本語研修」も受けました。

ー「やさしい日本語研修」とは、どのような研修ですか。

松本:外国籍の患者さんとの日本語コミュニケ―ションを学ぶ、医療従事者向けの研修です。医療現場で普段使用する専門用語を使わずに、外国人の患者さんへ「やさしい日本語」で伝えるレッスンなどを受けました。

黒澤:研修を受けて、国ごとに文化が異なるため、日本では当然だと思っていたことが通じない場合があると改めて感じました。例えば、日本では「捻挫」した場合に冷やすのが常識ですが、国によっては冷やす処置を拒否されることもあるそうです。
また、外国籍の患者さんに対して、医療従事者がまず英語で話しかけることが多いですが、日本に移住している外国人は英語圏以外の出身者が多いと知り、「そうだったのか」と驚きました。さらに、日本人が英語を使うことでニュアンスが変わる可能性もあり、コミュニケーションには「日本語を使うのが最適」だということもわかりました。ただし、その日本語は「やさしい日本語」を使うことが重要です。
こうした学びをもとに、チームでは外国籍の職員向けの取り組みを始めるにあたり、「やさしい日本語就業規則」の作成を始めることにしました。


「やさしい日本語就業規則」を作成し
外国籍の職員にも等しい情報の提供を目指す

ー外国籍の職員向けの「やさしい日本語就業規則」とは何か、具体的に教えてください。

黒澤:就業規則は、全職員にとって職場のルールや働き方を理解するうえで重要なツールであり、困った時に参照する機会が多いものです。けれど、外国籍の職員が就業規則を読んで、「内容が理解できない」と感じるのであれば、日本人職員と同じ情報が平等に提供されません。
チームでは就業規則が「誰にとっても必要な時に真に役立つツール」となるよう、新たに外国籍の職員向けの「やさしい日本語就業規則」の作成が必要だと考えました。

ー「就業規則」は労働基準法に基づく内容が含まれるため、日本人が読んでも難しく感じる部分が多いですよね。

松本:そうなんです。「労働基準監督署」のような専門用語がたくさんあるので、それを外国籍の方にわかりやすく直すのは、苦労しました。一つひとつの言葉に向き合って「どう言い換えればわかりやすくなるか」と考えていきました。

鈴木:やさしく直すのが難しい言葉って、ほかにはどんな言葉がありますか?

松本:例えば、「危険物を所持しない」という一文など、単純だけど難しくて。「危険物とは何か」から説明しないといけないので、「ナイフや火を持ってきてはいけません」と直すような感じで進めました。ほかにも「制裁」という言葉なども直しにくかったですね。ペナルティを与えるという意味だけど、就業規則の内容としてどのように伝えやすくすればいいか、その妥当なラインを模索していく感じで進めました。これらは本当に一例に過ぎません。

稲垣:気をつけないと、和製英語などもありそうですね。

黒澤:そのあたりも難しかったです。それから、簡単な日本語だから「直す必要がないか」と思いがちな言葉であっても、「来日したばかりの人にはわからないかも」という視点も大事にして、みんなで一語ずつ吟味しました。

ー作業の進捗はどうですか。

黒澤:今、就業規則をひと通り「やさしい日本語」に直して、最終チェックに入った段階です。実際に使用できるようになったら、外国籍の職員にはもちろん、日本人職員にも、規則の説明をする時に役立ててもらえたらうれしいですね。

ー「人種・国籍・言語」分野で、今後さらに進めたい取り組みを教えてください。

松本:「やさしい日本語就業規則」は基本的に外国籍の職員に対するアプローチなので、次のステップとして日本人職員が、この分野を含むダイバーシティを学ぶ機会を用意できたらいいなと考えています。
料理など親しみやすいテーマをきっかけに、多くの職員に多文化への関心を持ってもらう企画などが案として出ています。

黒澤:外国籍の職員も日本人職員も、せっかく縁があって同じ場所で働いているので、より深くお互いを理解し合うきっかけ作りを行っていきたいと思います。

松本:人種・国籍・言語の話は、職員だけでなく患者さん、利用者さんの話でもあります。安心して働ける職場作りと並行して、安心して利用できる医療・福祉環境を作ることにも挑戦していきたいです。「やさしい日本語」について医療・福祉従事者が学ぶ研修など、いろいろな方法を検討していきたいですね。


「障がい」分野における課題

ー次に「障がい」分野についての取り組みについて教えてください。

鈴木:この分野では今、主に「障がい者雇用」の課題解決に向けて取り組んでいます。
現在、グループには障がい者手帳を所持する職員が約200名所属(2024年12月時点)し、清掃や介護スタッフ、調理補助をはじめ、さまざまな職種で活躍しています。
課題として、施設によっては障がいがある当事者と、ほかの職員との双方が「働きづらさを感じている」という声が挙がっています。

鈴木さんはダイバーシティ&インクルージョンの前身となるプロジェクトを進めていた時に、障がいがある方の就労サポートに就いていました。施設職員と意見交換をし、現場の実情を聞いたり相談などを受けたりしていました。


ー「働きづらさを感じる」ことについて、その理由はわかっているのでしょうか。

鈴木:はい。これは私が現場職員と話したなかで感じたことですが、大きく分けて二つの理由があります。
一つ目は、「当事者への周囲の理解が得られない」ことです。一部の施設では、職員が障がい特性を理解していないために、当事者に厳しく接する場面が見られます。当事者に適切なサポートを提供するのではなく、「人と違う部分」に注目してしまう職員もいるようです。
さらに、当事者と直接関わる職員は限られており、それ以外の職員が無関心であることも「無理解」を生む要因になっているのではないかと感じています。
二つ目は、「障がいのある人を評価する方法がわからないため、適切な業務を割り振れない」ことです。一部の施設は、当事者に適した業務を任せ、良好な職場環境を整えています。そうした施設では、当事者の適性の見極めに注力しており、支援機関によるジョブコーチ支援(※)の導入や、職員にジョブコーチの資格を取得させたりするほか、特別支援学校との連携を深めて定期的に採用したりしています。一方、こうした対策を取っていなかったり、ジョブコーチの支援が十分でなかったりする施設で、適切な業務が割り振られずに不和が生じやすくなっているようです。

※ジョブコーチ(職場適応援助者)支援とは、障がいのある方がスムーズに職場で働くためのサポートを行うこと。障がい特性に合った仕事の仕方や職場の人とのコミュニケーションの取り方などを、当事者と雇用主双方に助言・提案します。

稲垣:問題が生じる施設は、やっぱり障がい特性に対する知識が圧倒的に不足しているんだと思われます。相手を知り、どのように配慮すればいいかがわかれば、コミュニケーションが取りやすくなると思うんですが、まず管理者が障がい者雇用に際して、手探りで進めているなかで、その部下が理解するのは難しくなりますよね。
少なくとも障がい者雇用の最低ラインとして、「こう進めるといい」という指針がグループとして標準化できていない現状があります。

稲垣さんは、鈴木さんと共に法務部に所属し、普段から各現場施設内で起こる職場問題などに対応しています。


鈴木:グループ全体の話だと、そもそも「障がい者雇用がなぜ必要か」、これがまだ全体に伝わっていないことが大きな問題でもあると思います。

稲垣:そうですね。国が定めた法的な義務を果たすためだけの障がい者雇用では、真の意味での多様性や共生社会の実現につながりません。グループミッション「じぶんを生きる を みんなのものに」やダイバーシティ&インクルージョンの精神を理解したうえで雇用を進める、その考え方の浸透が必要だなと思います。

鈴木:障がいの有無にかかわらず、自然に助け合い、協力し合える文化が息づく職場作りを目指すことが大事ですよね。私は法務相談で施設現場を回っているんですが、いい職場って「助け合い」が自然にできていると感じることが多いです。


「障がい者雇用の進め方」の標準化をグループで進める

ー障がい者雇用において、グループで標準化を図っていると聞いています。

稲垣:今、障がい者雇用のビジョンや行動指針の明文化を進めているところです。具体的には「採用活動のなかで段階的にやるべきことのマニュアル化」「採用選考ツールの作成」「採用後、 雇用継続・定着を目指すうえで必要な具体的タスクの明文化」「現場への支援体制の構築(困りごとの問い合わせ窓口設置など)」の検討を行っています。

稲垣:障がい者雇用は、本当は個々の特性に合わせた「個別性」を重視するべきだと思います。しかし、採用側には、共通して持つべき重要情報もあるので、「ここだけは知っておきましょう」「ここだけは確認して進めましょう」というポイントを整理し、グループ全体で共有する必要があると考えています。
そのための仕組みとして、先ほど申し上げた「採用選考ツール」や「マニュアル」を整え標準化ができたらとチーム内で検討しているところです。

鈴木:障がいがある方の情報収集と、採用~採用後のフローと適切な支援、その標準化ができれば、障がいがある職員をきちんと評価したうえで、適切な業務を渡すことができ、長く働いてもらう流れができるんじゃないかなと思います。
現場職員も「なんとかしたい」という想いを持つ人が多いので、「進め方」を知れば、より良い関係性作りにもつながると思っています。

稲垣:問題が生じている施設も、悪意があってそうなったわけではないですもんね。
みなさんせっかく同じグループに所属しているので、障がい者雇用をグループとして統一的に進めるというのは、推進室としてできることかなと思っています。


障がいの有無に関係なくどのような職員も自分らしく働ける職場へ

稲垣:それから、障がい分野の本質的な話として、取り組みの対象者を「障がい者手帳を取得している人」という枠に限定していいのか、という問題もあります。
私と鈴木さんは法務部に所属していますが、各施設から「みんなと同じように働けない職員がいて、どう対応すればいいかわからない」という相談をよく受けます。そうした職員のなかには、おそらく発達障がいと診断されていないものの、軽度の症状が見られる、一般的に「グレーゾーン」と呼ばれる人が含まれています。
障がいの有無に関係なく、誰しも得意不得意があり、個々の特性には濃淡があると思います。私たち推進室は「誰もが働きやすくなる職場作り」を目指しているので、❝障がいがある職員の課題解決だけ❞でなく、あくまですべての人のための活動を行いたいと思っています。
どのような方に対しても広い視点を持ち、一人ひとりの能力をどう発揮させるか、どうサポートできるかという視点を大事に進めたいですね。非常に難しいことですが、それが真のダイバーシティ&インクルージョンかなと私は思っています。

鈴木:これまで見てきたケースとして、現場で課題を抱えていたグレーゾーンの職員に対して、現場でさまざまな指導や工夫をしても改善されず、周りの職員から期待されなくなってしまうことがありました。けれど、グレーゾーンの職員の特性を見据えたうえで業務の伝え方などを工夫することで、仕事が改善された事例もなかにはありました。これまでのやり方を見直したり、環境を少し変えたりすることで課題解決に向かう可能性があるので、推進室として、そうした働きかけを行っていけたらいいなと思います。

ー今後の展望を教えてください。

稲垣:今は障がい者雇用のマニュアルを作成していますが、その次のステップとして個々の特性に合わせたアプローチをどう行っていくかという研修を、役職者向けに実施していきたいと考えています。
同じ職場で働く仲間として、どんなサポートが必要かを、研修を受けた職員が部下に伝えられるようになるといいなと思います。

鈴木:推進室のほかのメンバーも話していましたが、やっぱり「対話」が大切です。現場職員は、障がいがある職員の仕事の仕方に課題を感じても、マンパワー不足のため、時間をかけて「対話」できないこともあります。また、身近すぎて見えない点もあろうかと思います。そこで、現場との関わりが少なく、当事者に対して先入観のない第三者が介入し、現場職員との橋渡し役を務めてもらう仕組み作りはできないか、と考えているところです。
橋渡し役となる人が、当事者の適性を評価する形で現場職員をサポートすることで、当事者は能力を発揮する仕事を得て、職場全体の仕事が円滑に進み、支え合う関係性が生まれたらいいなと考えています。
結果的に互いを思い合う職場作りにつながるように、その仕組み作りを一歩ずつ進めていきたいと思います。


この記事は後編へ続きます。
後編では、SOGI / LGBTQ₊に関する取り組みについてのインタビューをお伝えします!


メンバーのみなさんはとても仲が良く、インタビューは終始和やかな雰囲気で進みました。率直な意見を交わし合える信頼関係があるからこそ、全員が力を合わせて「より良い職場作り」に取り組めているようです。ぜひ後編の内容にもご期待ください!