【障がい者支援施設FAN】ものづくりでひらく一人ひとりの可能性(後編)
ものづくりを通じて一人ひとりの個性を発揮し、自分の可能性を広げて楽しく過ごせるように――。
そんな想いを込めて、平成医療福祉グループが運営する障がい者支援施設「FAN(ファン)」(大阪府大阪市淀川区)は2024年4月より利用者さんたちの作業内容と施設名をリニューアルしました。
FANの取り組みを伝える後編では、「ものづくり」を通して利用者さんと関わり合う現場職員インタビューとFAN初のイベント出店の様子などをお伝えします!
前編はコチラ!
※PALETTEは、FANのすぐ横に位置する「ものづくり」に特化した施設です。
FAN現場職員インタビュー
前編では、嶋岡 真人施設長のインタビューを通し、FANが「ものづくり」に特化した作業内容へリニューアルした目的や具体的な内容をお伝えしました。ものづくりを通して、利用者さんは生き生きとした表情を見せるようになり、職員たちにも変化が見られたそうですが、実際にどのような想いで支援に取り組んでいるのか、現場職員3名に聞きました。
インタビュー① 新田 勝平さん(生活支援員)
ー新田さんがFANへ入職した時期は、ちょうど旧名「海萌」から「FAN」へのリニューアルを進め始めたタイミングだったそうですが、その頃のフロアの様子はどんな感じでしたか。
新田:入職後、生活介護:クリエーションフロアの担当となりましたが、その頃はまだコロナ禍の影響もあって、利用者さんは個別の席についてそれぞれが自立課題(※)に取り組んでいました。
「楽しそう」という雰囲気ではなくて……。「いつもの流れで軽作業してる」という感じでしたね。そのほかは、活動時間中ずっと寝ている方もいましたし、利用者さん同士の衝突が日々頻発する状況でした。
※最初から終わりまで一人で取り組めるように設定された活動(例:箱やカード、ピンポン玉などのツールを用いて、物を入れたり、分類させたり、マッチングさせるなどの作業)
ーそこからオープンな席に変えて、創作活動が始まりました。利用者さんたちの様子に変化は見られましたか。
新田:少しずつでしたが、絵を描く人が増えてきて、それぞれが好きな創作を始めるようになり、利用者さん同士の衝突も気づけばほとんどなくなっていました。おそらく、抱えていることなどが、ものづくりで発散できるようになったんだと思います。
ーものづくりを介した利用者さんとの関わりで、印象的な出来事はありましたか。
新田:一例を挙げると、他害行為が割と激しかった、ある利用者さんがいます。私が入職した頃は、その方が机を倒して人に当てたり、私が話しかけたらたたいてきたりしたので、最初は「少し怖いな」と思っていました。
でも毎日その方の横について過ごし、「人が嫌がることをしたら、周りの人が離れていきますよ」というお声がけをしているうちに、利用者さんが、私に対して「自分と向き合っている」と思われたのか、少しずつ様子が落ち着き、笑顔を見せるようになったんです。
そのような状態になった頃、創作活動はまったくしない方だったんですけど、ある日コップを私に差し出したので、飲み物がほしいのか尋ねると「違う」と示してきました。それで「絵でも描きますか」と声をかけたら、コップに絵を描かれたんです。
それから、絵をもっと描いてみては?と勧めてみると、少しずつですが毎日コップに絵を描くようになって、今では絵の具も使って描くようになりました。
ーものづくりが、日常の楽しみになられたんですね。
新田:そうですね。その方以外の利用者さんたちも、次第にものづくりを楽しむようになったので、フロア全体の雰囲気が本当に明るくなりました。今後も利用者さんが自然と熱中してものづくりに取り組めるように、支援していきたいですね。
インタビュー②
青木 雄大さん(FAN係長・理学療法士)
大庭 綾華さん(生活支援員)
ー大庭さんも青木さんもリニューアル前から、この施設で働いていますね。その時の現場の様子を教えてください。
大庭:就労継続支援B型のプロダクションフロアにおいては、工場の下請け作業などをメインに行っていました。利用者さんが軽作業を繰り返し行い、作業工程で間違いがある時などは私たち職員がサポートしていました。黙々と進める仕事なので、利用者さんと職員の会話は少なかったですし、職員は厳し目に作業のチェックをする必要がありました。
青木:やっぱり工場などから受ける仕事なので、少し汚れているだけでも商品としてNGになる場合が多いんですよね。だから基準をクリアするために職員が多少厳しく対応せざるを得なかったんです。
ーそうした作業が「ものづくり」へリニューアルされると知って、どのように感じていましたか。
大庭:私はもともと絵を描くことが好きなので、楽しくなりそうだなと思う反面、利用者さんは長年これまでの作業を継続しているから「絵は仕事じゃない」とか「嫌だ」と言われたらどうしようと不安も感じていました。
青木:私は、嶋岡施設長の「利用者さんの可能性をより伸ばす作業にしたい」という考えを早くから聞いており共感していたので、「職員が最初は不安を感じるだろうな」とは思っていたものの、「今よりもっと楽しくなるだろうから、きっと大丈夫」という気持ちでいました。
嶋岡さんと一緒に、職員へ「なぜリニューアルするのか」その想いを伝えながら、まずはみんなが「ちょっとチャレンジしてみようかな」と思えるような環境を作ることから始めました。
ーものづくりをスタートして、どんな変化が生まれましたか。
青木:軽作業から、いきなり自由度の高い創作になったので、やはり職員も利用者さんも戸惑いがある様子は見られました。
絵を描くといっても「何を描いていいのかわからない」状態から始まったので、描くテーマなどを探すためにも、改めて「利用者さん一人ひとりと向き合い、好きなことや嫌いなことは何なのか、もっと知ろう」と職員間で共有するようにしました。また、創作の材料もたくさん用意して、利用者さんがどれを使うか自由に選べる環境も整えました。
そうするうちに、職員同士で相談し合うことが増え、だんだんと大庭さんみたいな職員が、利用者さんの創作意欲を引き出そうと、いろいろ企画して実行するようになったんです。
大庭:利用者さんが自由に絵画制作などをするようになって、「この方はこんな絵が描けるんだ」とか「こんな表情で創作に取り組むんだ」という発見が増えました。絵には正解がないので、作業の自由度が上がった分、職員の考え方も自由度が上がり、青木さんが話したような、「一人ひとりに向き合う支援」がより考えやすくなったと思います。
それに、利用者さんと職員が頻繁に会話するようになり、コミュニケーションが本当に増えましたね。
ー利用者さんのご家族の反響はどうですか。
大庭:普段から定期的な連絡を行っていますが、PALETTEの1階などでFAN利用者さんの展示会を行った時には、足を運べなかったご家族へ写真を載せた手紙などを送りました。利用者さんたちは自分の作品がFANの施設外の人に見られることを恥ずかしがる方が多いんですが、展示されている様子をご自身で目にすると、とてもいい表情をされるんですよ。そういう姿を親御さんへお伝えしたくて。
そうするうちに「利用者さんの自信につながることなら応援したい」と話すご家族が増えました。
ーものづくりにおける利用者さんのやる気を、具体的にはどのように引き出しているんでしょうか。
大庭:人それぞれに個性が違うので、アプローチは異なります。一例を挙げると鉛筆にこだわって絵を描く利用者さんがいます。その特性はもちろん、そのままでもいいんですが、その方の「可能性を決めつけない」という考えから、色に触れる機会を設けようとフィンガーペイントで専用の絵の具を試してもらいました。そうすると、手に触れることで色の楽しさを知ったようで、今では筆を使って色彩豊かな絵を描くようになりました。
また、漢字だけを素敵に描く利用者さんもいるんですが、個人的に「この漢字を、さらに何かの形にしてあげたい」と思い、その利用者さんへコラージュしてみることを促したんです。そうしたら、ご本人が意欲を持って取り組むようになり、今は商品にも採用されました。可能性が開かれたのかなと感じています。
ーものづくりを介した支援を、今後どのように進めていきたいですか。
青木:障がいのある方は、社会において、どうしても生活や活躍の幅が狭められる部分があると感じています。でも、今FANで行っているものづくりは、利用者さんたちの個性を生かして可能性を広げることであり、それはその方の強みになると思っています。利用者さんが作品や商品を介して社会とつながり、「自信」をつけて、活躍の場を広げてもらえる支援を進めていきたいですね。
ちょっと大きな話ですけど、PALETTEと一緒に、大阪で一番の「ものづくりの事業所」にしていきたいと、思っているところです。
大庭:私も青木さんと同じような想いを持っていて、障がいがある方に対して、社会がまだそれほど寛容ではないから、割と家に閉じこもりがちなタイプの方が多いと感じています。
でも、FANの利用者さんたちには、素敵な個性を持つ人がたくさんいるから、その作品や商品を介して、世の中の人にもっと知ってもらいたいと思っています。
ものづくりで利用者さんたちが本来の魅力を発揮できるよう支援を続け、社会に存在する「障がいというレッテル」を外していきたいですね。
FAN商品がイベントに初出店!
~KITAKAGAYA FLEA 2024 Autumn & ASIA BOOK MARKET出店ミニレポート~
このようにFANは4月から利用者さんたちのものづくりを行ってきましたが、制作した絵・デザインなどは、布生地に反映して商品化することを少しずつ進め、10月19日(土)・20日(日)には初めてのイベントに出店しました!
職員が利用者さんにイベントへ出店することを伝えると、利用者さんのなかには出店を意識して、より意欲的に取り組んだ方もいたそうです。
大庭さんの話によると、「自分が作った商品を買いたいと思う人がいるのかな」と不安そうに話していた利用者さんも多くいたそうですが、いざ、イベントが始まってみると、たくさんの方が来店し、購入していました!
イベントは2日間とも多くの方にご来場いただき、大盛況のうちに終了しました。
その様子を、イベント後に職員が利用者さんへ伝えると「自分で作った商品を、誰かが購入した」事実に刺激を受けた人たちがいたそうです。よりこだわりを持って制作に取り組むようになり、以前よりもディテールまで細かく描くようになるなど、「表現がさらに豊かになった」方が増えたとのことでした。
利用者さんがもっと輝けるよう
社会とつながるものづくりに挑戦!
最後に、FANの取り組みについて、ここまでの取り組みの振り返りや今後の展望を嶋岡さんに話してもらいました。
ーリニューアルのスタートからここまでの取り組みで感じていることを教えてください。
嶋岡:FANのものづくりはまだ始まったばかりですが、リニューアルして戸惑っていた利用者さんと現場職員が次第に生き生きと活動するようになり、施設全体が活性化していると感じられて、うれしく思っています。
福祉に携わる私たちの仕事は、自分たちの提案次第で、利用者さんの世界を広げたり可能性を引き出したりすることができ、喜びが大きい仕事だなと、改めて実感しています。
ー今後の目標を教えてください。
嶋岡:今回の初のイベント出店では、良い影響を受けた利用者さんたちが見られました。この、ものづくりを介して社会とつながるというアクションを一過性のもので終わらせないよう、イベント参加や展示会などを、もっと展開していこうと考えています。
PALETTEのほうでは活動を5年継続し、商品を取り扱ってくださる店舗などが増えるなかで、商品を介して作家(利用者さん)のファンになってくださる方も増えている状況です。障がいの有無に関係なく、商品自体を評価したり、作家に興味をもってもらえることに、この活動の意義があるのかなと思うので、FANも同様に進めていきたいですね。
また今後は、FANもPALETTEもイベント出店だけではなく、地域の人などが参加できるワークショップなども実施して、利用者さんが社会とダイレクトにつながる機会を作る計画を立てています。
今の社会には「障がい」という、「不要なカテゴライズ」が存在し、それを通して利用者さんたちを見る人がどうしても多いから、その現状をなくしていきたいと、これまでずっと考えてきました。
だから、さまざまな方に利用者さんと直接関わってもらい、一人ひとりの素敵な個性に触れることで、これまでの先入観などがなくなる人が増えればいいなと思っています。
FANはPALETTEと共に、利用者さんが「ものづくり」を通してもっと自分らしく輝けるよう、これからも挑戦を続けていきます。今後の活躍にも、ぜひご注目ください!
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【追加情報】
PALETTEが「ケアリングマーケット」で「こここなイッピン市」ブースに出店しました!
2024年11月23日(土)、24日(日曜)に開催された「ケア」にまつわるモノとヒトが集う「ケアリングマーケット」(東京都世田谷区「BONUS TRAK」)で「こここなイッピン市」のブースに出店しました!
福祉をたずねるクリエイティブマガジン『こここ』の編集部が全国の❝福祉発プロダクト❞の「イッピン(一品/逸品)をセレクトし、そのなかの一施設としてPALETTEも出店しました。
こここなイッピン市について
PALETTEが「十三アートフェス2024」に参加!
大阪市淀川区の十三エリア一帯で、アート作品の展示や音楽、展示、トークショーなどが楽しめるイベント「十三アートフェス2024」(2024年11月23日(土)~12月1日(日))にPALETTEが参加。PALETTE1階ショップ/ギャラリーでの絵画展示を12月下旬まで予定しています。
今年のフェスのテーマは「せかい」。利用者さんたちの自由な解釈で描いた「せかい」を展示しています。ぜひお越しください!
日時:2024年11月25日(月)~12月下旬を予定
場所:PALETTE1階ショップ/ギャラリー
※:土日祝日は通常通り休業日となりますのでご了承ください。
過去に掲載したPALETTEの取り組み記事はコチラ!