【空間プロジェクト】利用者さんと職員の双方が心地よく過ごせるデイサービス空間作り‐Vol.3-(前編)
平成医療福祉グループが運営する介護老人福祉施設「ヴィラ南本宿」に併設する「平成デイサービスセンター南本宿」(神奈川県横浜市旭区)では、利用者さんの心が満たされ、職員が気持ちよく働ける、理想のデイサービス空間作りとして「空間プロジェクト」を進めてきました。
構想から約2年をかけて内装の改修や庭作りなどを行い、デイサービス空間を変化させてきましたが、利用者さんや職員にはどのような影響があったのでしょうか。プロジェクトに携わったメンバーの話を通して全体を振り返り、前・後編に分けてお届けします。
前編では、プロジェクトリーダーを務めた介護福祉事業部 通所部門管理者の前田 浩太郎(理学療法士)さんが外部パートナーとして依頼した「nata studio」が手がけた改装に関する内容をお伝えします。
nata studioに依頼することになった詳細は、こちらをご覧ください!
【改装詳細】
改装ポイント①みんなの庭作り
フェンスを撤去し、既存の庭を生かして整備しました。利用者さんがより畑作業を行いやすい状態に整え、中央にはレンガを敷いてベンチを作成。改装後、庭から公道へアクセスできるようになり、利用者さんの行動範囲が広がって、地域の人も立ち寄りやすくなりました。
庭作りの詳細は、こちらの記事をご覧ください!
改装ポイント②心地よい居場所を見つけられる窓際空間作り
利用者さんがそれぞれに心地良い場所を自由に選んで過ごせるよう、窓際にテーマを設けた「場」を作りました。木のぬくもりが感じられる家具を配置し、天井には広葉樹の板を貼って、温かなイメージで統一させました。
存在感のある「島」の形をした家具はnata studioがデザインし、製作はnata studioと前田さんたちが森林資源の循環を大事にしたものづくり・空間作りなどを手掛ける「株式会社飛騨の森でクマは踊る」(※)の考えに共感して、依頼しました。
※株式会社飛騨の森でクマは踊る(通称・ヒダクマ) 公式サイト
家具クレジット
製作ディレクション:江上 史都、黒田 晃佑(ヒダクマ)
製作:go-products、ノナカ木工所、小倉鉄工
関連記事(「株式会社飛騨の森でクマは踊る」の公式サイトより)
施設職員の声
プロジェクトリーダーの前田さんは、空間プロジェクトについて、「職員一人ひとりの協力があったからこそ、進められた」と話しています。内装や庭が少しずつ変化するなかで職員はどのような感想を持ち、利用者さんの様子を見つめていたのか、一部の職員のコメントを紹介します。
赤塚 さだ子さん(介護職員)
「庭作りは、改装段階から利用者さんが参加し、女性の方でも鍬(くわ)を持って畑を耕したり、nata studioと一緒にレンガを敷いたりと、生き生きと作業されていたのが印象的です。庭が完成してから外へ出る方が本当に増えました。デイに来たら、必ず庭で日光浴する方もいます。普段あまり話さない方も、庭では話が弾む姿が見られ、環境の変化は人との交流や行動にも影響を与えるんだなと感じています。
改装を経た窓際では利用者さんたちが自由に居場所を見つけて、伸び伸びと過ごすようになりました。大きなテーブルではものづくりや将棋などに熱中する方が多いですね。
改装が始まった時はどうなるのかと戸惑いもありましたが、結果として、よりみなさんが生き生きと過ごしているので、良かったと思います」
関水 亜紀子さん(デイサービス相談員)
「改装を経た空間は、職員にとっても居心地の良い場所になっています。これまで、職員のなかで庭周りの担当を特に決めていなかったんですが、気づけばみんなが意識的に利用者さんを庭へ促したり、庭で何か活動をしようと考えたりするようになりました。利用者さんたちも、庭で自発的に水やりをしたり、落ち葉を掃いたりという姿がよく見られます。
私自身も、利用者さんとベンチに座ってゆっくり会話する時などに、庭の居心地の良さを実感します」
「みんなの庭」完成のお披露目を兼ねて
地域の方を招いた祭りを開催!
2024年11月9日(土)には、ヴィラ南本宿のデイサービスで、「みんなの庭」お披露目を兼ねた「紅葉祭」を開催しました。毎年恒例の祭りですが、地域の方を招いての開催は初となります。
軽食や駄菓子の販売、和太鼓演奏などの催しのほか、庭での花の寄せ植えワークショップやnata studioが担当する木材を使用したものづくりのワークショップも実施。当日はたくさんの人が訪れました。
利用者さんたちは、祭りを楽しむだけでなく、多くの方が「役割」を持って参加。ワークショップの先生を務めたり、受付や販売を手伝ったりして、地域の方々と交流しました。
nata studioインタビュー ~改装を振り返って~
ーこのプロジェクトで庭を改装し、利用者さんたちの活動が増えましたね。どのように感じていますか。
武部:職員の方から、朝、デイに到着したら庭の掃き掃除を習慣とする利用者さんがいると教えてもらいました。「新しい自分の役割」が生まれているようで、すごくいいなと思います。
長岡:フェンスがなくなったから、庭から外へ出て、雑誌を買いに行く利用者さんもいると聞き、自由な行動が増えたのもうれしく感じています。
職員の方も改装した空間を支援に生かそうとしていて、すごいなと思っています。紅葉祭でのワークショップも、職員の方から依頼をいただいたんです。
ーワークショップと言えば、nata studioは改装プランに「ワークショップを進める」ことを入れていましたね。
武部:そうです。そもそも私たちは「空間を作ること」だけを目的としていません。空間を作って、そこにいる人がその場に愛着を感じられる場に育てることまでが建築行為だと考えています。
そのためには、利用者さんが空間作りのプロセスに少しでも参加することが重要だから、庭作りを一緒に行ったり、説明会を開かせてもらったりしました。そういうアクションの一つとしてワークショップも想定していたんです。
長岡:建てたその先の、使う人たちへの「ケアの視点」を持つのは大事なことだなと、今、改めて感じています。
武部:今回の祭りでのワークショップで使用した木の端材は、この場にストックしておくつもりです。ここに置いておけば、利用者さんたちが自然に使用して、ものづくりが継続されると思います。木工ワークショップで端材の削り方やはんだごての使い方などを覚えた利用者さんが、別の利用者さんやここに立ち寄る子どもたちなどに教える場になっていくといいなと考えています。
ーその場からも新たな関係性が育まれそうですね。
武部:そういう関係性があることは、きっと誰かの生きがいになるし、ケアにもなりうると考えています。そのための場作りを今回させていただけたかな、と思っています。
ープロジェクトを進めるなかで、難しさを感じた部分はありますか。
長岡:「みんなで作る」ことにこだわってきた分、アイデアをどう職員のみなさんと共有するか、また、専門的に進めたい部分をどうみなさんと共に進めればうまくいくのか、という部分が難しくて、試行錯誤しましたね。
武部:とはいえ、「みんなで参加するのがいい」という考えも自分たちのエゴかもしれない、と悩みました。でも、空間ができあがったら、結果的にその場は使う人達のものになっていくんだなと、今回実感できました。悩んできたプロセスの部分なんてどうでもよかったのかなと思うくらい、職員や利用者さんたちが「自分たちの空間」と感じて活用してくださっているのがうれしいです。
ー最後にプロジェクトの感想をお願いします。
武部:今回のプロジェクトは、nata studioとしても初のプロジェクトでした。だから挑戦する気持ちがすごく強くて葛藤もありましたが、利用者さんも職員のみなさんも一緒に考えながら進めてくださって、とても感謝しています。
長岡:空間って、本当に建築家だけでは作れない、チームで作るものなんだなと身にしみて感じました。空間が完成しても、「もっと良くしていこう」という想いが私たちにも職員のみなさんにも生まれているので、いい意味で完成ってないのかなと感じています。
プロジェクトリーダーインタビュー ~地域に開かれた施設を目指して~
最後に、プロジェクトリーダーの前田さんに改装を経て感じたことや、この先の展望を「地域に開かれた施設」を目指す観点から話してもらいました。
ー庭を開いたことで、施設と地域との交流が生まれているそうですね。
前田:庭沿いの公道を通る小学生や犬の散歩中の方などが立ち寄ってくれるようになり、今まではなかったつながりが生まれています。訪れた人と利用者さんたちとの交流が自然に育まれているのは「庭」の効果だなと感じています。
ー地域の人へ「施設の中を見せる」ことも、今回の改装において大事な点だと聞いています。このことについて教えてください。
前田:介護施設って、自分と関係がなければ「特別な場所」だと感じる人が多いのではないかと思います。でも、庭を開いたことで、地域に住む利用者さんの知り合いの方が、施設内の様子を気にかけるようになったり、庭に入って利用者さんと立ち話をしたりするようになりました。こうした交流によって、「施設は自分とは無関係」「イメージがつかない」と思っていた方にも、もっと身近な場所に感じてもらえるのではないかと思います。
利用者さんが庭仕事をしたり、窓際でものづくりしたりと、生き生き過ごす姿が公道から見えるようになったので、地域の人たちに「介護サービスを受けるだけの場所ではないんだ」と感じてもらえたらうれしいですね。
ー紅葉祭は、地域の方に中の様子を見てもらう良い機会になったのではないでしょうか。
前田:地域の方に「この場所はいつでも開いています」という施設の姿勢は伝えられたのではないかと思います。
でも、一番大事なのはこれからの「日常」であって、地域に開いたことで目的達成ではないということです。地域の方と施設が気軽に接点を持ち続けて、互いを気にかけ合うことで、それが利用者さんや地域の方との一体的な活動につながっていく。そうした支え合う関係が実感できるようになって初めて、「地域に開かれている」状態になるのかなと思います。
ー今後、日常的に開いていくためのアクションは考えていますか。
もちろん、何かしらの目的がないとわざわざ立ち寄ろうと思う人は増えないので、きっかけ作りが必要です。その手段として、直近では11月から駄菓子屋をデイフロアで始めました。(屋号・ヴィラ南本宿のだがしやさん)
駄菓子を買いに来る人は、開放している庭側から気軽に入ってもらうようチラシやのぼりで案内しています。番頭さんを務めるのは職員と利用者さんです。今は、地域の子どもや、その親御さんがよく駄菓子を買いに来るようになり、施設内で利用者さんとの交流も生まれています。
このほかにも、施設内で継続的にワークショップを開催したり、寺子屋的な活動をしたり、地域の方へ庭を貸し出して出店してもらうなどいろんな活用法を考えているところです。「誰のために、何のために」が抜け落ちることがないよう、職員・利用者さんと協力してアイデアを出し合い、時間をかけて少しずつ、本当の意味で地域に開いていきたいと考えています。
この記事は後編へ続きます。
後編では、もう一つの外部のパートナー「幸せ空間プロデュースチーム」が手がけた改装についてお伝えします。 ぜひ、ご覧ください!
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【追加ニュース】
ヒダクマ主宰のオンライントークイベントに空間プロジェクトメンバーが登壇しました!
「地域との支え合いを生み出す福祉施設の空間づくりとは?」
2024年12月3日(火)オンライン開催済
https://www.youtube.com/live/geHswPAPdkg