【障がい者入所支援施設ポレポレクラブ】メンバーさんと共に楽しむ支援のかたちー淡路島合宿レポ―ト&インタビュー(後編)ー
平成医療福祉グループは、誰もが自分らしく生きられる社会の実現を目指し、グループのミッションとして「じぶんを生きる を みんなのものに」を掲げています。
今回、このグループミッションを自然に実践している、グループの障がい者入所支援施設「だんけのそのポレポレクラブ」(大阪府大阪市淀川区)の職員の想いや支援の考え方を、「島の合宿」の取り組みを通じてご紹介します。
本記事の取材は、2024年9月18日(水)〜19日(木)の1泊2日で実施された「島の合宿」に、グループ広報部員が同行。その様子をレポートします。
後編はポレポレクラブ職員のインタビューをメインに、広報部員の視点を交えてお届けします!
合宿の様子をメインにお伝えした前編はコチラ!
※1 これ以降、「ポレポレクラブ」と略称表記します。
※2 ポレポレクラブでは利用者さんを「メンバーさん」と呼びます。
※ココロネ淡路
https://awaji.cocorone.space/
【2024年9月18‐19日合宿参加者】
メンバーさん4名、職員4名
【ポレポレクラブ職員インタビュー】
職員インタビューは、前編でお伝えした「メンバーさんたちが合宿所では、普段とは違った行動や表情を見せる」という話の続きからスタート。
さらに、日常の支援についても聞き、施設全体の支援についてくわしく掘り下げていきます!
メンバーさんの気持ちの訴え方はさまざま。
職員の支援のあり方も人それぞれでいい
ー「島の合宿所」では、ほとんどのメンバーさんが、施設内では見られない良い一面が引き出されるとのことですが、これについて成川さんは「支援」という観点からどのように考えていますか。(※太字は広報部員の発言〈以降同様〉)
成川:合宿では多くの方が、今まで見せたことがない生き生きとした表情や行動といったプラス面を見せてくれますが、反対にマイナス面が引き出される方もいます。環境の変化や刺激が強すぎることで、つらくなったり、落ち着きを失ったりと、反応は人それぞれなんです。
でも、マイナス面が見られても、「こういう場面でこんな反応をするんだ」とわかるので、その方をより深く理解するための大切な要素だと考えています。だから、マイナス面を理解することもプラスです。
施設では、「施設内で過ごすメンバーさん」の姿しか見えません。外に出て初めてわかる「その方らしさ」が多くあると、この合宿で改めて感じますね。
ー合宿中、不安定な様子のメンバーさんに職員がじっくり寄り添う様子が何度か見られました。今回のメンバーさんたちは全員言葉(言語)でのコミュニケーションがある程度取れる方々ですが、それが難しいメンバーさんの場合は、どのように状況を察するのでしょうか?
成川:言葉を使って気持ちを主張できなくても、メンバーさんは何らかの形で私たちに訴えかけてくれます。
その表現は人によってさまざまです。突発的な行動や混乱する様子はわかりやすいですが、いつもとは違う小さな変化からも、普段とは異なる状態が読み取れます。
例えば、足音がいつもより大きいとか、動きがいつもより速いなどですね。よだれが出ていると調子が良く、出ていない時は不調のサインかもしれないなど、人によって異なるバロメーターを持っています。
ー以前、施設を見学した際、メンバーさんがつらくなって他人に手を出してしまったり、いつもとは違う行動を突発的に取られたりと、予想外のことが頻発することを知り、「イレギュラーな出来事が多い生活の場だな」という印象を受けました。
みなさんはどんな気持ちで日々対応しているんでしょうか。
成川:私の場合、前提として「自分が思った通りのことが起こる」とは思っていません。例えば、友人関係でも、相手が何を考えているか100%はわからないですよね。時には、相手を意図せず怒らせてしまうことだってあります。そんなふうに人同士の関係では、期待通りの反応や行動が返ってこないイレギュラーが起こるのは、当たり前だと思うんです。
この話に、真剣に耳を傾けていた入職1年目の作業療法士の宮脇 亜依さんがぽつりと感想を述べました。
宮脇:私は、成川さんのような考えをもって、メンバーさんのすべてを受け入れる心の余裕がまだないなと感じています……。
成川:いや、私も人間なので、100%は受け入れられません(笑)。でも、「そういうものかな」と捉えるくらいでいいんじゃないかと思います。
長年この仕事をしていて感じるのは、支援の「基準」があったとしても、そのとおりにメンバーさんが行動されるケースはほとんどない、ということです。でも、だからこそメンバーさんが不安定な状態になった時などに、自分たちが「こうすれば落ち着くかもしれない」と試みたことがうまく作用した時の喜びは、とても大きいと感じています。
ーそれは具体的には、どんな時なんでしょうか?
成川:例えば、言葉を発することはできても、言葉で想いを伝えるのが得意でないメンバーさんに対して、「交換日記」を提案したことがありました。すると、普段は何も主張しない方が、日記にはたくさんの想いをつづり、「実はこういうことを考えていたんだ」とわかりました。日記を書くことで、ご本人が抱えていた想いを発散できるようになり、さらに「文章を書くこと」が得意だということもわかったんです。この発見は、その方の能力を伸ばす支援にもつながりました。
ー私はこれまで職員の様子を見て、メンバーさんに対する愛情がとても深いと感じています。ただ、それゆえにメンバーさんに優しくしすぎたり、助けすぎたりしてしまうことはないのでしょうか?
宮脇さんはこの点について、何か感じることはありますか?
宮脇:まだ入職1年目なので、正直、わからない部分も多いのですが……。仮に自分がメンバーさんの「社会的に問題がある行動」を大目に見たり、優しく対応しすぎてしまったりすることで、その方の自立を妨げてしまうのは怖いことだと思うんです。
だから私は、先輩職員の対応を見て、「ここはこう注意するんだ」と学びながら進めているところです。
ー成川さんはどうお考えですか。
成川:私は職員によって、メンバーさんとの関わり方はいろいろあっていいと思います。
私の場合はメンバーさんにいろいろと口を出すので、「口うるさい」と思われているでしょう。
でも、私のようなきついタイプがいれば、優しいタイプの職員もいて、それでいいと考えています。私はポレポレクラブは、メンバーさんにとって「第二の家」みたいなものだと思っているから、例えば厳しい親がいたり、優しい親がいたり、兄弟や親戚みたいな距離感で見守る職員もいることで、メンバーさんにとっての逃げ道や居場所が生まれると考えています。
宮脇:それを聞いて安心しました。自分の対応に悩む部分もあったので、「私は私なりの関わり方でいいんだ」と思えました。
ー成川さんはこうしたアドバイスを、普段ほかの職員にも行っているんですか。
成川:自分から「こういう関わり方をしたほうがいいよ」というアドバイスは一切しません。ただ、職員が自分の対応に悩んでいる時は声をかけるし、メンバーさんにとって不利益な対応を取っている場合は、しっかり注意します。
メンバーさんと職員が対等に「楽しむ」ことが大事
ー成川さんが話したように、ポレポレクラブではメンバーさんはもちろん、職員一人ひとりの考えも尊重してますよね。
「島の合宿」も、希望した職員だけが参加しているそうですが、これについて森本さん、くわしく教えてください。
森本:そうですね、職員にはそれぞれの考えや事情があるので、「合宿参加」は業務として義務づけていません。
役職者は私を含めて7名いますが、「島の合宿」はこの7名で話し合い、メンバーさんにとって良い体験になると確信して始めた企画です。少人数ずつの参加で、いずれメンバーさん全員を島にお連れしたいので、もしほかの職員が参加できなくても、役職者だけでも実行しようと考えていました。
でも、いざスタートしたら意外にも「行たいです!」と希望する職員が多くて、驚きました。初回に参加したメンバーさんが本当に楽しそうで、その様子や写真を職員間で共有したら、さらに職員の合宿にかける思いが高まっていきましたね。
ー合宿参加者の組み合わせはどのように決めているんでしょうか。
森本:メンバーさん同士や、メンバーさんと職員の相性を考慮しています。職員については、せっかくの機会なので、普段あまり関わりのない職員同士やメンバーさんをあえて組むこともあります。今回、宮本さんがそうですね。
ー宮本さんは合宿参加自体が初めてですよね。この合宿を、どう感じましたか?
宮本:楽しいですね(笑)普段自分が担当していない方と関わる機会が得られたし、ここに来て、よりメンバーさんと職員が「一緒になって楽しんでるな」と感じます。
ーポレポレクラブは職員がメンバーさんと「一緒に楽しむ」ことを大事にしていますね。
森本:はい。これは施設職員が共通して大事にしていることだと感じています。
これに関連する話ですが、私たちの施設では、今春に役職者の合宿を行い、グループミッション「じぶんを生きる を みんなのものに」の考え方を深堀りして、施設独自のアクションプラン(行動指針)を考えました。それは「メンバーさんの世界に入り、共に楽しみ メンバーさんのペースに合わせ、強みを引き出し、自分らしさを尊重する」というものです。この中にも、「共に楽しむ」という要素が、もちろん含まれています。
ー「島の合宿」の取り組み自体を表現するような言葉にも感じられます。
森本:それはアクションプランに沿った取り組みが実践できているということかも知れませんね(笑)
このアクションプランは、まだ言葉としては施設の全職員へ伝えていませんが、アクションプランに沿った行動を役職者が実践することで、ほかの職員へ「ポレポレクラブの支援の姿勢」を少しずつ示し始めているところかな、と思います。
ーでは宮本さんは、このアクションプランを初めて聞いたんですね。どう感じましたか?
宮本:ポレポレクラブらしい言葉かなと思います(笑)私は長年ここに勤務していますが、森本さんが話した「役職者の支援の姿勢」は、職員みんなが見ています。だからその影響はとても大きいと感じています。
役職者が、この合宿のように熱意を持って取り組んでいる姿を見ていると、私にも「自分もやろう!」という気持ちが伝播しましたし。
また、そう思えるのは、普段から役職などの垣根なしに考えを伝え合い、助け合おうとする関係性ができているからかな、と思っています。
成川:今日の合宿中もそうですが、職員が阿吽の呼吸で動いたり、自然とお互いをフォローし合う、というのはできているかなと思いますね。
宮本:そうそう。連携はすごく取れているなと感じます。
職員同士の関係性や気持ちのあり方が
そのままメンバーさんへの支援に反映される
ー「職員間の連携」を高めるために、森本さんは施設長としてどのように心がけているのでしょうか?
森本:グループ全体で力を入れている「心理的安全性(※)」を確保するよう努めてきました。というのも、実は、自分自身の経験によるところが大きいんです。
以前、仕事で悩んでいた時に、上司から自分の考えを述べるよう言われたことがあり、恐る恐る答えたんですが、その時「やってみたらいいんじゃない」とすんなり後押しされて、「提案してもいいんだ」とハッとした感覚が忘れられません。これがきっかけで、仕事へ前向きな姿勢が持てるようになりました。
この実体験から、役職に関係なく誰もが意見やアイデアを出せる環境を作ることは大事だと思い、積極的に促してきました。そのおかげで、今は自分の考えを率直に言う職員が増え、意思疎通が図りやすくなって連携が高まっていますね。指示がなくても自発的に行動する人も多くなったなと感じています。
※組織のなかで自分の考えや気持ちを安心して表現できる状態のこと。
ーそうした話を聞き、みなさんの支援を見ていると、メンバーさんが居心地よく過ごすためには、職員同士の関係性もそうですが、一人ひとりの「気の持ち方」が重要なんだなと感じます。
森本:そうですね。職員の関係性が悪かったり、何かに追い詰められたりという緊張感はメンバーさんにも伝わるし、結果的に良くない支援につながってしまいます。
だから職員が「心のゆとり」を持って働くことが、すごく大事だなと感じています。
ーとはいえ、外から見ると、気を抜ける現場ではないように感じます。職員の「心のゆとり」をどう確保しているんでしょうか。
森本:これについては、施設長に就任した時からの課題でもあったので、さまざまな対策を講じてきました。その一例として、地域医療との連携体制を築いたことは大きいと思います。
以前は、メンバーさんを皮膚科や歯科、精神科の診察へお連れする際、通院先で不安になり突発的な行動を起こすことがあり、診察のたびに職員も周りを配慮して緊張していました。メンバーさんにも職員にとっても身体的・精神的負担が大きかったので、これを解決するため、地域の協力的な医療機関を探すことに力を入れたんです。
今では地域医療機関との関係性が築けたので、定期的に往診してもらえるようになりました。施設内で診療(往診)ができるため、メンバーさんもいつもと同じ環境で落ち着いていられるし、職員も余裕を持って見守れるようになりましたね。
また、各医療機関の医師の方々が親身になって対応してくださるので、緊急時には診療時間外でも対応して頂いており、職員は安心して業務に携われるようになりました。これは「心のゆとり」につながっています。
「その方らしく過ごす」ために医療と福祉の調和を図る
ー少し話がそれますが、医療と言えばポレポレクラブでは服薬している方の「薬の見直し」を随時行っていますよね。これについてもくわしく教えてください
森本:私たちの施設では、「その方らしく過ごせるかどうか」を基準に薬の見直しを行っています。特に精神科の処方薬については、様子を見ながらできるだけ必要最低限に抑えることを目指しています。
例えば、入所前に精神科で入院していたメンバーさんがいました。多くの薬を服用しており、その影響で日中ぼんやり過ごすことが多かったんです。そこで、地域の精神科医に相談し、少しずつ減薬したところ、活動量が増えて「やりたいこと」も職員に伝えてくれるようになり、以前よりも生き生きと過ごせるようになりました。
ー薬に頼るわけでも否定するわけでもなく、「その方らしく」過ごすために調整する、ということですね
森本:はい。まさに、ポレポレクラブは「医療と福祉の調和」を保つことを大事に考えています。
医療と福祉の視点には、少し異なる部分があるんです。今回のような合宿活動は、精神医療の視点から見ると、「日常生活とは違うイレギュラーな活動だから、生活リズムがくずれて不安定な状態となる可能性が高い」と見なされ、懸念されることが多いんです。
でも、私たちやグループ代表の考えでは、「支援する側がイレギュラーを心配して何もしないより、メンバーさんが旅行に行く楽しみを味わうことのほうが大事だ」という考えをもっています。地域の精神科医も、この考えに賛同しているので、合宿の実施に踏み切ることができました。
実際、合宿ではこれまで大きな問題もなく、メンバーさんは、「ここでしか感じられない楽しみ」を実感されているなと、感じられます。
「みんなで楽しむ」をどんどん実行していこう
ーこの合宿を含め、今後の屋外活動の展望を教えてください。
森本:島の合宿については、2025年3月末までに、全メンバーさんをお連れすることを目標にしており、すでに冬までのスケジュールを立てています。(※)
また、グループ内のほかの施設職員にもこの合宿に参加してもらうことを計画中です。普段会わない人との交流はメンバーさんに良い刺激となり、社会性の向上にもつながると考えています。職員にとっても他部署の人と交流できる良い機会です。
「合宿」がメンバーさんにとってプラスになることはわかりましたが、今後は同じ内容を続けるのではなく、新しい要素を加えながら、より良いものにしていきたいですね。
合宿以外の屋外活動も、もっとメンバーさんの「やりたいこと」を反映できたらいいなと考えています。例えば「外食レクリエ―ション」はすでにやっていますが、レクという感覚ではなく、もっと当たり前に、「あれ、食べに行こっか」と気軽に行けるよう、柔軟に実施していこうと考えています。
直近では、メンバーさんはコーヒー好きな方が多いので、本格的な喫茶店に行く計画なども立てているんですよ。
※身体の状態などで合宿参加が難しい方は不参加。
ーそれらの計画もすべて、「職員も一緒になって」体験していくことが大事なんですね?
森本:そうです。もちろん、職員のエゴや思い入れが強くなり過ぎると、「メンバーさん本位」の支援ができなくなってしまうので、そこはみんなで注意しています。そのうえで、職員も「一緒になって楽しむ」のがポレポレクラブかなと思います。その瞬間は、メンバーさんも職員も生き生きと過ごせていると思います。
誰でも、「楽しい」と思うことを多く体験したいものですし、それを一緒に共有できるのは素敵なことだなと思います。だからこそ、合宿はとても大事。これからも「みんなで楽しむ」活動を増やしていきたいですね。
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合宿後の追加情報
合宿を終えて約1カ月後、9月の合宿に参加したメンバーさんたちの、その後の様子について森本さんに尋ねると、メンバーさんたちの合宿に参加した職員に対する様子が、以前より好意的に変わってきたとの報告をもらいました。
森本さんによると、「楽しい関わりをもつ」ことが、互いの関係性に大きな影響を与えるのだそうです。
また、10月にも島の合宿が2回計画されていましたが、現地の舗装工事の影響で実施できなくなってしまいました。しかし、職員は「せっかくみんなが楽しみにしていた活動を、中止で終わらせるわけにはいかない!」と、急きょ別の宿泊先を探し、和歌山県の民間宿泊施設で合宿を実施しました。
役職者は「いつかはグループ外の施設でもメンバーさんの泊りがけの旅行を実施したい」と考えていたそうですが、予想外の出来事をチャンスに変えて、その計画が早くも実現しました!
和歌山合宿の様子をリアルタイムで写真で送り、情報を伝えてくれた森本さんが、メンバーさんも職員も立場に関係なく生き生きと過ごす姿を見て「これが『じぶんを生きる を みんなのものに』ってことなのかなあ」とつぶやいた言葉が印象的でした。
ポレポレクラブは今後も、メンバーさんと職員が共に楽しみ、共に歩む支援を続けていきます!