オランダ発の【廃棄パンで味噌作り】。OUCHIで開催したユニークなワークショップをレポート
当グループが運営する障がい者支援施設「OUCHI」(東京都足立区)は、精神障がいのある人が、地域に戻ることをサポートする福祉施設です。
OUCHIは、誰もが支え合って地域で生活するための拠点として、「地域とのつながり」を大切にする取り組みを外部と協働して行っています。
今回はオランダと静岡県裾野市を拠点に「世界一小さな味噌屋」として活動している廣瀬 絵里加さんを講師に迎え、廃棄パンを使った味噌づくりのワークショップを11月23日(祝日)に行いました。その様子を広報部がレポートします!
捨てられる運命のパンから、味噌を作る
世界中で食べられているパンは、一方で、世界で一番廃棄されている食品でもあります。イギリスのパンの廃棄率は44%、アメリカは33%という衝撃的なデータがありますが、日本だって同じ。実際に、都内のある有名ホテルでは年間約2トンのパンを廃棄していると言います。
もちろん、毎日店内で焼いたパンを販売しているOUCHIも例外ではありません。
捨てられる運命のパンから、味噌を作るーー。
なんともユニークなアイデアですが、他人事ではない食品ロス問題の解決策として、今回のワークショップでは大きな学びがありました。
誰にとってもハッピーじゃない、食品ロス問題をなんとかしたい
廣瀬さんは現在、オランダのロッテルダムと静岡県裾野市の二拠点で“世界一小さな味噌屋”として活動しています。
味噌作りのきっかけは、病気の父親に少しでも体に良いものを食べさせてあげたいという思いから。おばあちゃんの自家製味噌を参考に作り始めたそうです。その後、ヨーロッパでその土地の食材を生かした味噌を作ろうと各国を巡り、オープンでチャレンジする人を受け入れる国民性のオランダで味噌屋を始めたのが、今から13年ほど前になります。
オランダでは、ひよこ豆など地元の有機農業で育てた材料を自ら仕入れ、天然醸造の味噌作りを行っています。作った味噌は、自ら開拓したレストランなどに販売しているのですが、ある時、取引先のシェフから「毎日パンが余るんだけど、何とかできないかな?」という話を持ちかけられたそう。
「食べ物を捨てることは、気持ちのいいことじゃない。メンタルにも影響しているんです。誰にとってもハッピーじゃない、この問題をなんとかしたい」。
廣瀬さんのそんな思いから生まれたのが、生業としていた味噌作り × 廃棄パンのアイデアでした。約4年前からキットの開発を進め、2022年に「The Bread Miso Making Kit(パンミソキット)」の特許を取得。現在はキット(タネ)を通して、食品ロスをおいしく解決していくタネまきにも取り組んでいます。
一つとして同じ味にはならない手作り味噌。OUCHIは味噌のようになりたい
今回のワークショップは、食品ロスの解決アイデアを学ぶほかにも、OUCHIで開催する理由がありました。
ワークショップを企画した、介護福祉事業部の水戸 抄知さんは話します。
「手作り味噌は食材同士が時間をかけて混ざり合い、一つとして同じ味には仕上がりません。その違いを味わい、楽しむことが手作り味噌の醍醐味。この味噌作りの“混ぜる・混ざる”というのは、まさにOUCHIが目指すあり方だと思うんです。
例えば今OUCHIでは、毎週第3土曜日、誰でも無料で食事が食べられる“みんなでごはん”という取り組みをしています。これは純粋に、気軽に地域のみんなで集まってごはんを食べようという取り組みです。ふだん利用者さんはOUCHIで仕事をしているけれど、みんなでごはんの日は地域の一員となって、地域のみなさんと近い距離感で関わっていけたらいいなと思って。
年齢や障がいの有無など関係なく、地域のなかに一緒に混ざって笑い合おう。この文脈って味噌作りに近いと思いませんか」。
超簡単! 「パンミソキット」を使った味噌作りを紹介
一般的な味噌作りは、大豆を茹でて潰して、麹と混ぜて、何カ月も発酵させて…と時間も手間もかかるもの。ところが、このキットを使えばカンタン中のカンタン。火も使わなければ、道具も不要なんです。しかも3週間で完成。では、その工程をご紹介しましょう!
まず、パンを用意します。今回使用したのは、毎月第1土曜日のみ販売しているOUCHIの生食パン。手前味噌ではありますが…こだわりのパンです! 天然酵母と北海道産小麦「ゆめちからブレンド」を使用し、卵・乳製品は使わずに米油ときび糖を使っています。もっちりとした弾力が特徴です。
次に、パンを一口大にちぎります。
ちぎったパンをキットの原液に漬けます。
手でもみもみします。
今日の作業はこれで終了。ここから2週間、毎日もみもみを繰り返しながら発酵させます。「可能であれば、毎日一緒に寝てください(笑)」と廣瀬さん。2週間後に魔法の液体を追加し、さらに毎日もみもみして、その1週間後には味噌が完成します。
参加者の方に味噌作りの感想を聞きました。
「廃棄パンで味噌を作るというユニークさに惹かれて参加しました。味噌作りってもっと難しいと思ったけれど、簡単過ぎて拍子抜け。え、これだけ? って感じです。エプロンもいらないですね。でも、これぐらい手軽だと、廃棄パンをなくしていくための取り組みとしても広がりやすいと思います」。
3週間後、参加したみなさんのお宅で、どんな味噌ができているのでしょう? OUCHIのこだわりパンがどんな風味の味噌に変身するのかも楽しみです!
どんなパンでも味噌になる! 世界に一つの味噌を作る楽しみ
こんなに簡単に作れてしまう廃棄パンを使った味噌。気になるのはそのお味ですよね? テイスティングスポットでは、廣瀬さんが作った味噌を味見することができました。
廣瀬さんが持ってきてくれたのは、次の食品から作られた4種類の味噌です。
・チョコチップ入りメロンパン
・サワー種を使った酸っぱいパン
・サワー種のパン+バター
・オランダ産のひよこ豆のような豆
ひよこ豆のような豆で作った味噌は、日本の豆味噌に近い味わい。メロンパンやバター入りのパンで作った味噌は、確かに味噌なんですが、ハジメマシテの味でした。ちょっと洋風のチーズのような感じもある濃厚な味噌で、パンに塗って、ハチミツなんかを垂らして食べるのもおいしそうです。
このように、使うパンによって味がまったく異なり、世界に一つの味噌が作れるのが、廃棄パン × 味噌作りのおもしろさなのかもしれませんね。
参加者の方からは「味噌汁だと一度にいっぱい使うからもったいない。味噌汁以外にどんな風に使うのがいいですか?」との質問が出ました。
「オランダの有名シェフは、カキのソースやデザートに使っていたりします。イタリアの友人はパスタソース、インドの友人はカレーに加えたりしてますね。日本食なら魚の漬け汁(味噌漬け)に使うのもおすすめです」と廣瀬さん。
食品ロスという大きな社会課題も、一人ひとりの小さな意識の変化から動いていくのかもしれません。今回のワークショップで廣瀬さんが蒔いた小さなタネが、大きく育っていきますように。
OUCHIは、味噌作りのように地域と混じりながら、楽しい&おいしい活動をこれからも展開していきます。近くにお住まいの方も、そうでない方も、ぜひ気軽にお越しください。
OUCHIのイベント案内
毎月第3土曜日開催!「みんなでごはん」
「みんなで食べるとおいしいね」。そんな言葉が聞きたくて、毎月第3土曜日にOUCHIカフェを、地域でつくるインクルーシブなみんなの居場所として解放しています。
具だくさんの豚汁やごはんなどのメニューを、どなたにも無料で提供していますので、気軽にお越しください。12月21日は、今回のワークショップで作った味噌を使った豚汁を提供する予定です。
※事前予約は受けつけていません。
開催日/2024年 12月21日、2025年 1月18日、2月15日、3月15日
時間/12:00〜15:00
※先着20名様
OUCHIについて
東京都足立区、大内病院近隣に立つOUCHIは、精神障がいのある人たちが地域に戻るためのサポートをする福祉施設です。
退院後の一時的な住居としてのグループホーム、就労訓練・就労場所としてのお菓子・パン工房とカフェ、各種ミーティングを行うための交流スペースを持っています。
どんな人にとっても孤独はつらいものです。寂しくなったり不安になった時にいつでも、話ができる仲間がいる場所。それがOUCHIの目指す場所です。OUCHI CAFEでは、栄養満点で体に優しいごはんやカフェメニューが楽しめます。
東京都足立区西新井5-18-14
OUCHI HOME/03-6803-1758
OUCHI CAFE KITCHEN/03-6803-1755
営業時間:月〜金曜 12:00〜15:00
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