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【インタビューレポート】インドネシアのクリニック「Heisei Rehabilitation Clinic」開設にむけて~インドネシア人理学療法士 日本国内研修~(後編)

平成医療福祉グループでは、「じぶんを生きる を みんなのものに」(※)をグループミッションとし、 患者さん・利用者さんのQOL向上を追求して積極的なリハビリテーションと高齢者医療の提供に日々努めています。

グループでは、これまで培ってきた知見と医療・福祉サービスを、助けを必要とするすべての人々に届けることを目指して、海外での活動も進めています。この一環として、2024年秋からインドネシア南ジャカルタにリハビリテーションクリニック「Heisei Rehabilitation Clinic」を開設することとなりました。

開設にむけて、Heisei Rehabilitation Clinicでの採用が決まった2名のインドネシア人理学療法士を2024年4月~6月の約3カ月間、日本国内のグループ病院に迎え、日本式のリハビリテーションを学ぶ研修を実施しました。

研修ではどのような学びや気づきがあったのか、インドネシア人理学療法士と日本人スタッフのインタビューを介してお伝えします!

※参照

前編はコチラ!


【インドネシア人理学療法士の二人】


明るくフレンドリーで、いつも笑顔。勉強熱心な二人です!

写真左:
Ni Kadek Rustiana Arisna Yanti
(ニ・ヤンティ・ルスティアナ・アリスナ・ヤンティ)さん
※以降、ヤンティさんと表記

インドネシアの総合病院と民間病院で12年、理学療法士として勤務。民間病院ではスーパーバイザーを務めました。3児の母です。

写真右:
Muammar Syadzali Nurkamaludin
(ムアンマル・シャドザリ・ヌルカマルディン)さん
※以降、ムアンマルさんと表記

インドネシアの民間病院で約10年、理学療法士として勤務し、スーパーバイザーを務めました。現在、Binawan大学でクリニカルインストラクターとして講師を務めています。


研修で学んだリハビリを、インドネシアの文化に合わせて生かしていきたい


グループが運営する平成記念病院にて二人をインタビュー。


ー研修全般を通じて感じた、インドネシアと日本のリハビリテーションの違いについて教えてください。

ムアンマル:グループの病院では、理学療法士(PT)・作業療法士(OT)・言語聴覚士(ST)がチームとして連携し、医師や看護師とも密に連絡を取り合っています。だから誰かが休んでも情報がチームに行きわたっているし、ミスが少ない。そして例えミスが生じたとしても、それを恐れずに伝えてみんなで解決を図り、スムーズに取り組める体制ができているのはすごいなと感じました。
インドネシアの場合は、医師の権限がかなり強くて、医師とほかの医療従事者との開きが大きいヒエラルキーが存在しているため、チームアプローチがあまりできていません。
これから自分たちがフラットなチームワークを築けるよう、コミュニケーションを促進していかなければいけないな、と思っています。

ヤンティ:私も同じように思いました。この問題はなかなか難しいけれど、チーム連携がしっかりできるように、まずは「みんなで相談し合いましょう」とか「声をかけ合いましょう」といった、基本的な意識づけを積み重ねていけたらいいなと考えています。そうすればコミュニケーションも向上し、問題解決に向かえるのかなと思っています。


ー研修で学んだことを、Heisei Rehabilitation Clinicでどのように生かそうと考えていますか。

ムアンマル:インドネシアの医療状況に合わせながら、グループのリハビリテーション部門の理念「人生に関わる覚悟を持って、真剣にリハビリテーションを実践します」に即したリハビリを行っていきたいです。
インドネシアは家族の結びつきがとても強い国で、高齢者や病気を患っている人のことを家族全員でお世話する文化があります。だからこそ、患者さんはもちろん、「家族みんなでリハビリに取り組みましょう!」というふうに全員を巻き込みながら、リハビリの意義をアプローチしていこうと考えています。


座学研修の様子。

ヤンティ:ムアンマルさんが話したように、インドネシアでは、特に子どもが親のことを絶対に見捨てられない想いが強いんです。親の介護は自分でやるのが当然だと思っているし、日本のように介護施設などのサービスが充実しているわけでもないので、介護に疲れてしまう人もいるんですね。だから患者さんはもちろん、患者さんに関わる人たちのQOL(※)も上げるように努めていきたいと考えています。

※ Quality of Lifeの略称であり、「生活の質」「人生の質」を示す。その人の生活や人生がどれだけ豊かで自分らしくあるかを測る、指標となる概念。


ー研修期間中のスタッフとの交流や生活についてはどうでしたか? 

ヤンティ:日本人スタッフのみなさんが、いつもとてもウェルカムな姿勢で対応してくださいました。優しくフレンドリーで、質問へのフィードバックも速くて助かりました。
リハビリに関して、悩むことがあれば「ここは直した方がいいと思う」とか「こうしてみたら」という意見もたくさんもらえたので、学びやすかったです。

ムアンマル:日本人スタッフのサポートはもちろん、同じ病院に所属して働くインドネシア人スタッフの存在も心強かったです。
日常生活で困ったことなどもすぐに教えてもらえたし、いろんな情報交換もできて助かりました。


二人が来日した日、豊中平成病院に到着して、日本人スタッフからの歓迎を受ける様子。スタッフが手にするインドネシア語「SERAMAT DATANG」は「ようこそ」の意味です。


日本人スタッフが企画した、二人の歓迎会の様子。日本での生活を通して、二人とも寿司やラーメンなど、好きな日本食が増えたそうです。


ー今後の目標を教えてください。 

ムアンマル:私の目標はいろいろな国のさまざまなリハビリを学ぶことなので、まずは日本式のリハビリを引き続きしっかり学びたいと思います。そして良いところをどんどん取り入れていきたいと思います。
患者さんも私も同じ人間なので、人と人としての関係性も大事に築きながら、患者さんの人生に関わっていくセラピストになりたいと思います。

ヤンティ:先ほど話に出た、グループのリハビリテーション部門の理念「人生に関わる覚悟を持って、真剣にリハビリテーションを実践します」ですが、この意味は患者さん、ご家族、そして私たちセラピスト自身のQOLの向上にも通じていると思います。
研修を通して、病気の影響で歩けなかった人がリハビリプログラムをがんばり、歩けるようになる例などをたくさん知り、「私たちセラピストは、目の前の人の人生の幸せに関わることができるんだ」と実感しました。それは自分自身の幸せにもつながります。
今後、部門の理念に基づいたリハビリを実行していきたいと思います。

研修中、移動先での二人。いつも仲良く、楽しそうに過ごしていました!


インドネシアクリニック「海外事業セラピストチーム」の視点

最後に、ヤンティさんとムアンマルさんに国内研修で指導を行った、「海外事業セラピストチーム(※)」のリーダー隠田 良祐さんに、研修を実施して感じたことやインドネシアクリニック開設へ向けての想いなどを話してもらいました。

※グループ各病院から集まったPT8名、OT1名で構成する「海外事業セラピストチーム」が研修で指導。セラピストのそれぞれの得意分野から講義を担当しました。

隠田 良祐(かくれだ・りょうすけ)さん
平成記念病院リハビリテーション部 部長代理(理学療法士)
隠田さんが所属するグループの平成記念病院(大阪府豊中市)は、ヤンティさんとムアンマルさんの研修拠点である豊中平成病院(大阪府豊中市)に隣接しています。隠田さんは研修期間中、ヤンティさんとムアンマルさんの指導を行いながら、二人の日々の様子を近くで見守ってきました。
9月には、隠田さんが「Heisei Rehabilitation Clinic」へ訪れ約半年常駐し、セラピストの指導を行う予定です。


インドネシア人セラピスト採用の背景と日本国内研修の成果


ー隠田さんはHeisei Rehabilitation Clinicのセラピスト採用面接から関わっているそうですが、お二人を選んだ理由を教えてください。

隠田:採用面接は海外事業部のスタッフが進め、私は最終面接に加わりました。選定の条件には、理学療法士としての経験や知識、コミュニケーション能力、日本式リハビリテーションを広げていくという意欲を重視しました。
二人とも現地で優秀なセラピストでしたし、明るく気さくで素直な性格です。研修中は、すぐに周りとなじみましたし、チェックシートや自己評価表などの記述では、自身で不足していると思われる部分なども率直に記入してもらったので、指導側としては課題が見つけやすかったです。

ー日本国内研修の最終目標とは何でしょうか。

隠田:ヤンティさんとムアンマルさんが、これから現地で新しく採用するセラピストに対して「リハビリでは、こういうふうな評価に基づく治療をしていかないといけない」という助言ができるレベルになることを目指しました。
細かな部分は日本人スタッフのフォローアップが必要であっても、グループのリハビリの基本方針に対する理解が深められていれば、この研修は成功かなと思っています。

ー二人を通して見えたインドネシアのリハビリの特徴を教えてください。

隠田:海外事業セラピストチームのメンバーたちとも話したんですけど、みんな共通して、インドネシアでは「機能面に特化したリハビリ」が主流である、という印象を受けました。
ヤンティさんとムアンマルさんに聞いたところ、インドネシアでは入院期間中に退院後の生活を見据えたリハビリがほとんど行われていないため、生活面は見ないまま退院する、ということがほとんどなのだそうです。
また、理学療法士がリハビリを実施して、それを終えたら次は作業療法士がリハビリを実施する、というような進め方が多いとのことです。二人のインタビューで話が出てきたように、インドネシアでは医師の権威がとても強いので、「チーム連携」が取りにくいということにつながりますね。


ー研修を通して、二人にはどのような変化が見られましたか。

隠田:研修がスタートした頃は、インドネシアと日本のリハビリの共通する部分に共感を覚える様子が多く見られました。ですが、学びを深めるなかで、「日本のリハビリのこういうところがいいな」と気づきを得る部分が多くなっていったようです。
先ほどの、インドネシアのリハビリは「機能面に特化している」という話ですが、二人ともこれに対して、患者さんの機能面を見るだけではなく、生活背景を考慮して、生活行為自体を良くすることで症状の再発を防ぐ、という考え方へ少しずつ視野を広げられるようになっていきました。
また、指導面で、患者さんのQOL追求のためにも患者さんと対話を重ね、コミュニケーションを図ることの重要性を日々伝えてきましたが、この意識も高まっていったようです。


すべてはインドネシアの患者さんのためにーー。
日本とインドネシアの両国のスタッフで試行錯誤して歩む


ー日本のスタッフが、研修を通して得られた気づきを教えてください。

隠田:私の場合ですが、もともと人との違いを受け入れやすい性格ではあるんですけど、今回、違う文化を持つ二人と接するなかで、物事に対する許容範囲がより広くなったように思います。
国の文化や生活背景などによって、人それぞれに考え方が異なるのは当然のことなので、人に何かを教える時、多様性を受け入れたうえで会話するほうが、お互いにとって良い学びにつながるな、と改めて実感しました。
リハビリにおいても、Heisei Rehabilitation Clinicで、インドネシアのリハビリの文化を受け入れて生かしつつ、日本のリハビリの良いところを、うまく融合させていきたいという想いが強くなりました。


ー9月にはHeisei Rehabilitation Clinicへ行く予定とのことですが、現地ではどのような指導を行っていきたいですか。

隠田:今回の国内研修の指導では、ヤンティさんとアマールさんが、学んだことを実際に患者さんへ還元するということができていません。ですが、インドネシアでは実際に患者さんへ二人がリハビリを実施しているところを見ながら、日本人スタッフが指導できるようになります。
国内研修では二人の課題が見えてきました。二人とも患者さんの症状からどんなリハビリが必要か、そこを見極めて組み立てる作業は早いのですが、もう少し綿密に「機能面と生活面の関わり」とか、「機能面同士の問題点の関わり」なども考えながら評価・治療する能力が必要かなと思っています。研修ではこの対策として、日本人セラピストが患者さんの評価・治療を行っている様子を見学したり、座学でいろいろな症例などを見てもらい講義を行いましたが、やはりこれだけでは足りない部分があるんですね。だから現地でも、しっかり指導して補っていきたいと思います。


ー今後の目標を教えてください。

隠田:このプロジェクトの目的は、何よりインドネシアの患者さんに「日本の医療を届けることでより良くなってもらうこと」にあります。日本のリハビリをどのようにインドネシアにマッチさせていくと良いか、現地スタッフと共に試行錯誤しながら築いていきたいと思います。
そのためにも、ヤンティさんとムアンマルさんの二人はもちろんですが、現地で新たに採用されるセラピストの教育にもしっかり力を入れていきたいです。


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