利用者さんの主体的な活動を促し「できること・やりたいこと」を進めるデイサービスへ(前編)
平成医療福祉グループでは、ミッション「じぶんを生きる を みんなのものに」を掲げています。ミッションを実現するための行動指針(アクション)の一つには「個人の意志とその人らしさを尊重する」(※1)があります。この指針に沿って実施する、利用者さんがより生き生きと過ごしやすくなるための取り組みをお伝えします。
今回は「ヴィラ南本宿」に併設するデイサービス「平成デイサービスセンター南本宿」(神奈川県横浜市旭区)をピックアップ。利用者さんの意思を尊重し、主体的な活動を促すことで、QOL(※2)の向上を図る考え方や、取り組みの事例などについて、介護福祉事業部 通所部門管理者 前田 浩太郎さんの話をもとにお伝えします。
※1 グループサイト参照
※2 QOL:Quality of Lifeの略称であり、「生活の質」「人生の質」を示す。その人の生活や人生がどれだけ豊かで自分らしくあるかを測る、指標となる概念。
自立支援を進めるために
利用者さんの主体性を引き出す
平成デイサービスセンター南本宿の施設内では、利用者さんたちが思い思いにご自身の時間を過ごす様子が見受けられます。
談笑したり、麻雀を楽しんだり、一人静かにくつろいだり、理学療法士による指導のもとで運動する方がいたりと、実にさまざまです。
ここでは決まった時間に、みんなで同じ活動をすることはほとんどなく、「やりたいことは利用者さんの自己決定に委ねるよう心がけている」と、職員の前田 浩太郎さんは話します。
デイサービスでのすべての活動において「利用者さんの主体性」に重きを置く考え方について、前田さんにくわしく聞きました。
※以下、「」内の発言はすべて前田さん。
「『利用者さんが主体的に行動する』という言葉には、特別な響きが感じられるかもしれませんが、これを促すことは、デイサービスにおいて必然であるべきだと思っています。
理由は二つあり、一つ目は介護保険法に基づくデイサービスの基本指針のなかにあります。そこには『利用者さんが可能な限り自宅において、自分の有する能力を生かして、自立した日常生活を営む』という内容が示されており、これに従えば自然と『主体的な行動』の必要性に結びつくんです。利用者さんが現在の能力を十分に発揮して、自らが望む行動をご自身でできるように導くことが『自立支援』につながります。
二つ目の理由は、少し大きな話になりますが『超高齢化社会』という時代背景にあります。4~5人に1人が後期高齢者となる『2025年問題』は、よく耳にする言葉だと思いますが、現役世代の人口は減り続け、介護の人材不足はますます深刻化します。そうした状況において、『与えることを、利用者さんがやるだけ』のデイサービスは成り立たなくなるでしょう。これはもちろん、自立支援を進めるうえでも大事なことですが、これまで過剰な介護や手伝いを実施していた施設は、それを見直す時期にきていると思います。利用者さんが主体的に物事に取り組める環境・サービスの提供を積み重ねることは、これからの社会問題の緩和にもつながっていくと考えられます」
利用者さんの「日常に溶け込む活動」をデイサービスで促す
さらに、利用者さんがより豊かな在宅生活を送るためには、デイサービスにおいて「『日常に溶け込む活動』を、利用者さんが自発的にできるよう促すことが大事」だと前田さんは話します。
「利用者さんの生活のベースは、デイサービスで過ごす時間ではなく、ご自宅にあります。だからこそ、日常からかけ離れた活動ばかりをしては、QOLの向上につながりません。私たち職員は個々の生活背景をしっかりと把握し、その方の日常に連動する活動を、デイサービスでも実施できるように努めています」
この言葉の通り、施設内では、利用者さんが自分たちで使用した食器を洗ったり、テーブルの拭き掃除をしたりと、日々の暮らしのなかにある作業に取り組む姿も見受けられます。
しかしこうした作業を、通所を始めたばかりの方が自発的にやることはほとんどありません。まずは職員が、「一緒に手伝ってくれませんか?」とお願いすることから始めるのだそうです。
「例えば日常的に、ご自身で食器を洗う習慣がある方には、様子を見ながら食器洗いをお願いしています。何度か声をかけるうちに、それは自然とその方のデイサービスでの日課になり、いつしか『役割』になっていくんです。最初は声をかけてお願いをしますが、もちろん、その後は無理に進めず、ご本人の意思にお任せします。自発的に役割をこなす方は、気持ちにハリを持ち、生き生きと過ごしているように見えますね」
施設では「日常に溶け込む活動」や自主参加の余暇活動だけに限らず、特別感のある「ハレの日」のイベントとして季節ごとの行事やお誕生会なども用意しています。しかしこれらのイベントも、職員主導で進めないようにしているそうです。
「例えば、準備段階から利用者さんに関わっていただくようにし、イベント当日に向けてみなさんのモチベーションを上げていくなどの工夫をしています。みなさんがイベントに参加する意義や楽しさを削らないよう心がけていますね。やはり大事なのは『利用者さんが主体的に関わること』ですから、その目的から外れないようにしています。
また、こうした主体的な活動や場づくりを行っていますが、介護度が高い方ももちろんいらっしゃるので、すべての人が自発的に行動できるわけではありません。日々のケアの中で、『できる方にはやってもらう』という考えを持って進めることで、介護度の高い方に、より多くのサポートや関わりを持てるようになる、という側面もあります」
利用者さんが「自ら行動する」きっかけ作りを
施設内では利用者さんが自発的に行動しやすくなるように、「お声がけ」のほかにも、さまざまな工夫を施しているそうです。
例えば、利用者さんが何か飲みたい時、職員が飲み物を提供するだけではなく、ご自身で飲み物を選んで用意できる環境を整えています。
また、「塗り絵」や「脳トレ」の材料などは一定の場所に用意し、誰もがやりたい時に、自由に作業できるようにしています。職員から、利用者さんに「これをやりましょう」と手渡すことはありません。
「多くの方が、何かしらの行動を半強制的にやらされることには苦痛を感じるでしょうし、気が向かないまま作業することが、心身に良い影響を与えるとは思えません。何より、デイサービスに行くことを『楽しい』と思っていただきたいですね。
そのために、『これをやろう』とご自身で決めて、過ごしていただける場作りを、こちらで進めていきます。もちろん、『何もしたくない。ゆっくりしていたい』という方の意思も尊重します。
どの作業や活動においても大事なのは、それが『ご自身の意思で行っている』かどうかです。デイサービスでの時間をただ無為に過ごされることがないようにしたいですね」
この考えに基づいたサービスの提供を続ける平成デイサービスセンター南本宿では、利用者さんから「これをやりたい」という声がよく挙がるのだそうです。
2022年春より、「ここで農業をやりたい」という利用者さんの要望から生まれた農業活動「南本宿ガーデン」が、スタートしました。後編では、利用者さん主体で取り組む、この農業活動についてくわしくご紹介します。
本記事は後編へ続きます。
【いつもどおりをあきらめない】利用者さんの主体的な活動を促し 「できること・やりたいこと」を進めるデイサービスへ(後編)