【人事部インタビュー】グループ職員が「自分らしく生きる」ための職場環境づくり(前編)
平成医療福祉グループは「じぶんを生きる を みんなのものに」(※)をグループミッションとし、誰もがどんな時も、自分らしく生きられる社会の実現を目指しています。
グループが医療・福祉を提供する目的は、患者さん・利用者さんがより良く、自分らしく生きるためのQOLの追求ですが、グループ職員自身が「自分を生きる」を実現することも大事に考えています。
そのための職場環境づくりにおいて、グループではどのような取り組みを行っているのか、人事部スタッフに聞きました。
組織の人と人の結びつきを強くする取り組みや、職員間のコミュニケーション活性のための活動にフォーカスし、3名にインタビューした内容を前・後編に分けてお伝えします。
※参照
次の3名をインタビュー!
グループが目指す「心理的安全性の高い職場」。
これを実現するための取り組みとは?
患者さんへ、より良い医療を提供するためには、スタッフ同士がフラットな関係となり連携する、チーム医療が欠かせません。
しかし病院は10種類以上の専門職が集まり、特に医師を頂点としたヒエラルキー型の組織になりやすく、一般企業に比べて心理的安全性(組織のなかで自分の考えや気持ちを安心して表現できる状態のこと)が低くなりやすい職場環境にあります。
そこでグループでは、より心理的安全性の高い職場を目指し、2022年から取り組みをスタート。その具体的な内容や経緯、医療現場でのコミュニケーションについて聞きました。
ー今、さまざまな業界で「心理的安全性」を高める組織作りが推奨されています。グループでも力を入れていますが、そもそも医療分野において、職員間のコミュニケーションにはどのような特徴が見られるのでしょうか?
泉:私たち人事スタッフは直接現場に入るわけではなく、主に各病院の事務長や総務の方たちと話を交わしながら現場の様子を知ることが多いです。
そのうえで一般的な話としての職場環境をお伝えすると、医療業界は企業などに比べて勤務体制が大きく異なるため、職員同士がコミュニケーションを取れる時間は少なくなりがちであると言えます。
例えば、一般企業だと決まったチーム単位で働くケースが多く、日々同じ人が関わり合うなかで、自然と会話が増えて関係性が高まっていくと思います。ですが、病院内は24時間体制で稼働しているため、勤務の交代制などの関係から、いつも同じメンバーが同じ時間に顔を合わせる環境にありません。
各現場で患者さんへの医療サービスの質を保つために、職員間で日々の業務はきちんと引き継がれていますが、いつも顔を合わせていることにより、相手を知ることができる機会は得られにくい状況にあると言えます。
ー一緒に働く人の「人となり」を知っているかどうかは、コミュニケーションの質を左右しそうですね。
泉:仕事を進めるうえで、互いをよく知っているほうが、コミュニケ―ションを図りやすいですよね。対個人として「つながるきっかけ」が一般企業より少ないのが、医療現場の特徴かなと思います。
ーそうした環境の改善を含めて、「人と人のつながり」を深めるために始まったのが「心理的安全性の取り組み」ですね。具体的な経緯と内容について教えてください。
相馬:もともと、グループ代表に医療業界特有のヒエラルキーをなくしていきたいという考えがあり、これをどうしていくべきか話し合いを重ねていくなかで「心理的安全性向上への取り組み」を始めよう、ということになりました。
取り組みはまず、「心理的安全性とは何か?」から周知していくことをスタートし、グループ全病院へポスターを掲示しました。
それから心理的安全性の研修を全病院の役職者に数回実施(※)した後に、「1on1」を導入しました。
※2022年5月27日に実施。
ー1on1を開始し、数カ月後にワークショップを実施したそうですが、どんな内容だったのでしょうか。
相馬:職員のみなさんに「1on1の目的はスタッフ同士のつながりを深めることです」と説明しただけで、現場のみなさんの気持ちが「よし、やろう!」となるわけではないことは最初からわかっていました。そこで、3カ月実施したタイミングで、あらためて「何を目的としてやっているのか」を考える機会を設けようと、ワークショップを実施しました。
ワークショップは組織・チームの「心理的安全性」を軸にしたプロジェクト型伴走などを行う株式会社ZENTech(ゼンテク※)さんに協力していただきました。
※株式会社ZENTech(ゼンテク)
内容は二部構成で、一部は1on1についてのよくある悩みごとなどの確認やアドバイスを行い、二部はグループに分かれて、実際にやってみた感想などを述べる座談会を行い、その後みんなで集まって話を共有し合いました。
このワークショップを通じて、人事部サイドとしては現場職員の1on1の様子がつかめたので、その後の進め方に、より具体性が持てるようになりました。
「1on1をやることに意味はあるんですか?」
現場の率直な声が届くことも大事
ー実施してからこれまで、1on1についての現場の反応などはどうでしょうか。
相馬:1on1が定着し、「職員同士のつながりが育まれている」という職場だけではもちろんありません。
開始したばかりの頃もそうでしたが、今でもたまに「これをやることに意味はあるの?」という声を直接いただきます。「普段から業務上でも話しているから、あえてやらなくてもいいんじゃないですか?」とか「あえて会議室を予約して時間を割く必要はないのでは?」というような声ですね。
大沼:でも、この「意味あるんですか?」という考えが私たちに伝わるのもありがたく、貴重な意見だと感じています。「やってください」といわゆるトップダウンで伝えられた取り組みを、現場が仕方なく実施するのではなく、実施者自身が意義を考えたうえで「必要ないのでは?」ときちんと伝えてくれることは、取り組み内容を見直す貴重な機会にもなります。
ある意味で、心理的安全性が保たれていないと発言しにくい内容かな、とも思いますし。
相馬:それに、「これをやる意味はあるのか?」という気持ちは私にも理解できます。
実は私も、この取り組みの話を初めて聞いた時、どちらかというと取り組み自体に反対していたんです。だって、苦手なタイプかもしれない上司と、二人きりで話さなければいけない時間を持つなんて、人によっては嫌かもしれないじゃないですか(笑)。
自分でも腑に落ちないことを現場のみなさんに勧めてはいけないと思ってました。だからこそ、この取り組みに自ら関わり、「やっぱりおかしい」と思ったら、むしろ取り組みを止めようって思ってました。
一同:(笑)
業務としてではなく「会話する」ための時間・空間の用意と
その意義を伝えることが大事
ーそこからどんな気持ちの変化があって、率先して取り組みを進める立場になっていったんでしょうか?
相馬:心理的安全性に取り組むために、まず自分たちでも勉強をしようと、組織開発メンバーで関連する本を読んだり、セミナーを受講したり、情報交換も重ねました。そうして知識が増えていくうちに「これは大事なことだな」と実感できるようになったんです。
やはり、互いを知るための会話は、「話そう」という機会がないとなかなか出てこないんです。現場スタッフからも聞きましたが、業務のなかでの会話は、個人的な話ではなく「この患者さんをどう評価しましょうか?」と、仕事の内容が中心になります。
だからこそ「会話する」目的だけの機会を設けることが必要だし、相手の返答などを聞くうちに、「この人はこういう考えを持っていたのか」と初めて知ることもあるはず。そうした気づきを得ると、日頃の関わり方も変わっていくと思うんです。
ーこうした取り組みを、大沼さんと泉さんはどう感じていましたか?
大沼:1on1において、たとえ最初の会話はサポートツールを使用しながらの形式的なものであったとしても、回を重ねるうちに、その二人だけの会話の空気感が生まれると思うし、自分たちの心地よい距離感もつかめると思うんですよ。そうしているうちに、お互いにとって望ましい1on1の方法が見えてきたら、コミュニケーションが前進するように思います。
現場職員が、業務の時間外で会話だけをする時間があればよいのですが、そうでない場合は、一対一だけの時間・空間をあえて用意することの意義は大きいと思っています。
泉:私は心理的安全性を高める取り組みを行うことは、「職場や役職の上下関係だけではなく、人と人としての関係を大切にしたい」、という姿勢の発信にもつながっているのかなと思います。
グループ代表がかねてより、患者さんはもちろん、「働く人の心」も大事に考えていると感じていて、個人的にはそこに共感しているし、今後、より大切にしていく必要がある部分だとも思っていました。
でも現場では、環境や状況的に取り組みを進めることが難しい場合もあると思います。だからこそ、やはり「なぜやりたいのか」という根本的な理由をこちらからしっかり伝え続けていく必要があるんだなと、相馬さんの話からも感じています。
ー心理的安全性の取り組みにおける、今の課題を教えてください。
相馬:現在まで1on1は役職者を中心に行っているので、一般職の方はまだまだ「心理的安全性って何?」という段階にいる方が多いと思うんです。だから個人的には、一般職の方へのアプローチを考えていく必要があると思っています。
また、先ほどの話にもありましたが、こうした概念は、伝え続けていくことが大事です。またワークショップや研修など、心理的安全性を体感できるようなものを計画していけたらいいなと考えています。今年はそういう部分も目標にしていきたいですね。
それからこの取り組みに限らず、現場職員にグループの方針が「トップダウンで通達されたから実施せざるを得ない」というふうに受け取られないよう心がけたいと思っています。
大事なのは、「組織にとって良いこと、最終的に患者さん・利用さんにとって良いことだから実施する」ことなので、この視点をもって伝えていきたいです。
どの取り組みでも現場の職員が自ら考えて行動するための
「きっかけ」を作ることが大事
大沼:相馬さんが話したように、どんな取り組みでも本部主導で何かをやるのではなく、現場のみなさんが自分たちの一番良い方法を想像し、物事を動かしていくための「仕組みやきっかけを用意する」ことが私たちの仕事で大事な部分かなと思っています。
話がそれますが、心理的安全性の取り組み以外の個人的な経験として、これまで事務的なことや人間関係の問題・課題などの相談を現場から受けることがありました。そこに私がピンポイントで関わって対応すれば、その場はいったん解決しても、同じ問題がまた再燃して、根本的な解決に至らないことが多々あったんです。
この教訓を得てから、私がその都度問題に対応するのではなく、現場で問題が起きた時に、その場でも対処できるような大元の仕組みを作ったり、それぞれが問題に適した方法で解決できる環境づくりが大事なんだなと、気づきました。
だから新しい取り組みを始める場合も、あくまで現場で考えて現場主導で進めていけるようなサポートを心がけたいと思っています。
泉:各施設ごとに環境も異なるし、職員一人ひとりがそこにいる背景も違うので、「グループとしてこれを大事にしていきたい」という発信に対する受け止め方はさまざまで、それがあたりまえですよね。
グループが考える、職員の「じぶんを生きる」を大事にするミッションは心理的安全性向上への取り組みにもつながっていますが、これを知ってもらうための仕組みや理解を深めるための機会を今後も用意することが大事だなと思います。
※参照
この記事は後編へ続きます。
後編では、職員のコミュニケーションを活性させるための「つなぎて」の取り組みなどをお伝えします!