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ケアホーム葛飾「かつしかパンの日」にみる「託児室」の可能性(前編)

平成医療福祉グループでは、ミッション「じぶんを生きる を みんなのものに」を掲げています。ミッションを実現するための行動指針(アクション)の一つに「助けを必要とするすべての人に医療と福祉を届ける」(※)があります。

今回このアクションに沿って、施設はもちろん、地域の方々も生き生きと生活していくための拠点となることを目指す、介護老人福祉施設の取り組みをピックアップします。

当グループが運営する介護老人福祉施設「ケアホーム葛飾」は、職員専用の託児室を併設しています。ケアホーム葛飾では「託児室も含めて一つのホーム」という考えを持ち、利用者さんや子どもたち、そしてその親を含めた職員全員が立場の垣根を越えてフラットにつながれる環境作りを進めています。

そのための取り組みの一環として、2022年6月より、当グループの障がい者支援施設「OUCHI」で作ったパンを、託児室の子どもたちを介して施設職員へ販売する「かつしかパンの日」という活動をスタートしました。

「託児室を施設全体にひらく」機会を設けた本企画をもとに、ケアホーム葛飾にみられる施設内に託児室がある特性や、託児室を生かして施設内外のつながりを深めていく可能性などについて、職員の話を交えてご紹介します。

※グループサイト参照


職場内に託児室があることで得られる「安心」と「つながり」

ケアホーム葛飾の託児室では、1歳~就学前の職員の子どもを預かっています。ここでの大きなメリットは、保育士と親との距離が近いこと。子どもの成長やちょっとした変化を情報共有しやすく、体調が急に悪くなるような緊急時でも、親にすぐ連絡できます。知らせを受けると、親子でそのまま病院へ直行するケースも珍しくないのだそうです。

託児室の様子。

また、ケアホーム葛飾の特長として、施設長を中心に職種の垣根なく協力し合う風土があります。託児室が忙しい時は、リハビリスタッフや事務職員などが手伝いに行くことがしばしばあるため、子どもの顔と名前や、その親を把握している職員が多いとのこと。たくさんの大人の目が行き届き、子どもと親の安全性が高められているのだそうです。

手伝いに行く職員たちにとっても、子どもを介して親である職員や託児室の職員とのコミュニケーションがとれるため、職場内の雰囲気向上にもつながっているようです。

利用者さんにとっても、託児室があることはプラスの要素に働いているとのこと。子どもが好きな利用者さんは、施設内で子どもの姿を目にするだけで笑顔になるのだそうです。利用者さんの元気の源になっていると言えるでしょう。

託児室を施設全体にひらく取り組みを

このように、託児室の存在が施設全体に良い影響を与えることを、多くの職員が実感してきたそうです。そのなかには「託児室が持つ可能性」の大きさに着目していた職員もいました。その一人である作業療法士の秋原 健利さんは、「託児室を起点として、人と人とのつながりをもっと広げる取り組みができるのではないかと思っていた」と話します。

そうした折に、秋原さんの考えに共感する当グループの介護福祉事業部 サービス企画課(以下、サービス企画課)の職員から持ち上がった提案が「かつしかパンの日」でした。

秋原さんに、この取り組みに至る経緯を教えてもらいました。

秋原さん

「託児室は、働く職員が安心・安全に子どもを預けられる場所ですが、それだけではなく、子どもの存在が働くみんなの癒やしとなり、職員同士や利用者さんとのつながりを育む『ハブ』のような役割となりうることも感じていました。こんなに素敵な託児室があるのだから、施設全体にひらいて生かす方法があるかもしれないと思っていたんですね。
ちょうどその頃、ケアホーム葛飾では、「OUCHI」で製造したパンを職員向けに受注販売することが決まっていました。そこで、『ただパンを販売するのではなく、託児室の子どもたちを介して販売するイベントをやってみてはどうか』という企画をサービス企画課の職員が持ちかけてくれたんです。『これはいいね!』とほかの職員とも盛り上がり、施設長も快く許諾してくれました」

こうして、OUCHIのパンを、事前予約した職員たちが受け取る場所が託児室に指定され、子どもたち数名がその日限りの「子ども店長」になってパンを受け渡すという「かつしかパンの日」が誕生しました。

当日までの準備は、ケアホーム葛飾の職員とサービス企画課の職員が連携して進めたそうです。


子どもを介して、さまざまなつながりを育む「かつしかパンの日」がスタート!

「かつしかパンの日」の第1回目は、2022年6月に実施されました。

パンは、OUCHIスタッフ(※)の手で直接託児室へ届けられ、子どもたちはバンダナとエプロンを身に着けて、「子ども店長」に扮しました。

※ 障がいを持つ方の就労を支援するサービス(就労継続支援B型事業所)を利用する方を、本記事では「スタッフ」と称します。

パンを届けて、セッティングするOUCHIスタッフの様子。
「子ども店長」に扮し、お客さんを待つ子どもたちの様子。

パンの受け渡しが始まると、子どもたちは入室する職員へ恐る恐る手渡していましたが、自分の親がお客さんとして託児室に入って来ると、どの子どもも目を輝かせて、うれしそうに役目をこなしていました。

子どもの親をはじめ、たくさんの職員たちが子ども店長のかわいさを写真に収めようと集まり、にぎわいを見せていました。
事務室から、子どもたちが「かつしかパンの日」の実施をアナウンスする様子。

受け取りに来る職員のなかには、利用者さんと一緒に訪れた人もいました。利用者さんたちは子どもたちとの触れ合いに顔をほころばせ、和やかなひとときを過ごしていました。

利用者さんと交流する子どもたちの様子。

廊下の窓からは託児室の様子が見えるため、子ども店長の様子をひと目見ようと、多くの人が立ち寄り、様子をうかがっていました。

第1回目が好評に終わると、現場職員とサービス企画課の職員で振り返りを行い、2回目以降の内容をブラッシュアップ。

利用者さんに、もっと受け取りの場に立ち会っていただくことや、子どもたちが紙で作った花を一緒にプレゼントするなど、託児室に訪れる人たちと子ども店長との交流を、より深めるための内容が追加されました。


2回目の「かつしかパンの日」。子どもたちが利用者さんへ花紙を渡す様子。


さまざまな大人と触れ合える豊かな環境を生かして

「かつしかパンの日」を実施して、託児室で働く保育士の平原 希望さんは、子どもたちが「貴重な交流」を体験できたことを目の当たりにしたそうです。平原さんに、イベントに参加した子どもたちに見られる影響を話してもらいました。

平原さん(左中央)

「子どもたちは、最初は恥ずかしそうにしていましたが、託児室に訪れた職員や利用者さんに『かわいいね』『ありがとう』と声をかけられるのが心地よかったようで、次第に自分から職員へ駆け寄っていきました。
店長になってパンを渡す役割を与えられて、いつもとは違う特別な雰囲気を新鮮に感じていたようですが、何より、たくさんの人と交流することが楽しかったようです」

これまで、コロナ禍の影響を受けて、子どもたちが利用者さんと交流することは難しかったそうですが、今回の企画ではそれがかないました。平原さんは「双方にとって良い効果があるな」と実感したとのこと。

「利用者さんが子どもと窓越しにハイタッチをしたり、涙を流して喜ばれたりする姿を見て、介護施設のなかに託児室があるからこそ、こうした温かい触れ合いが生まれて、良いことだなと思いました。
また、最近の子どもたちは自分のおじいちゃんおばあちゃん以外のお年寄りの方との交流が少ないと思うので、触れ合える環境があることは、この託児室の利点だと思います」

「子どもたちにとって、大好きなお父さん、お母さんの働く姿を間近で見られる機会は貴重です。きっとうれしいような、誇らしいような気持ちなのではないかなと思います。また、こうしたイベントを介してたくさんの大人と触れ合うことは良い刺激になるし、幼いうちから『高齢者福祉』が生活の場に溶け込んでいくことは素敵なことではないでしょうか。
今後コロナ禍が収まっていけば、『かつしかパンの日』以外にも、利用者さんと交流する機会を増やしていきたいと考えています。例えば、子どもたちが『探検隊』となって施設内をめぐれば、利用者さんとの出会いが増えると思うし、自分の親を含めて介護施設で働く人たちの様子を見ることもできます。自然な形で多くの人と接する機会を与えられたらいいですね」

託児室には一般的な保育園・幼稚園が持つ広さはないものの、ほかでは得がたい触れ合いや学びがあるのだと、平原さんは話してくれました。


本記事は後編へ続きます。
ケアホーム葛飾「かつしかパンの日」にみる「託児室」の可能性(後編)