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HMW大学セミナーレポート♯4「離島のリハビリ奮闘記」

平成医療福祉グループは主に職員の視野の拡大を目的とし、オンラインセミナー「HMW大学」を開催しています。今回は2024年7月19日(金)に開催された、第4回目のセミナーレポートをお届けします!

4回目の登壇者は全員、グループが実施する「離島プロジェクト」に加わった理学療法士です。人口約160~300名の❝一村一自治体の超小規模の島❞へ約1年間出向した各スタッフたちが、離島での活動報告や学びを得たことなどについて話しました。

「離島プロジェクト」とは?
平成医療福祉グループの地域医療モデル事業の一環であり、東京都の離島にリハビリテーション支援を行うためにグループリハビリスタッフを派遣するプロジェクト。
2022年から伊豆諸島の利島村でスタートし、同年に御蔵島村、2023年には青ヶ島でも開始しました。
プロジェクトの主な目的は、高齢者だけでなく、全島民を対象に包括的な支援を行い、心身機能の維持向上を図って、離島の健康福祉に寄与することです。また、島民との交流を通じたグループ人材の育成も目指しています。

「HMW大学」とは?
平成医療福祉グループでは、医療福祉の優れた専門職になるためには、専門領域にとどまらず社会全体を見据え、見識を広げることが重要だと考えています。
そのため、医療福祉分野以外にもさまざまな分野で活躍する専門家を招き、今後の業務における意識改革につなげるための学びの場としてオンラインセミナー「HMW大学」を始めました。
このオンラインセミナーは、グループ職員のみならず、誰でも無料で参加できます。


セミナーレポート第4回


2024年7月19日(金)開催

登壇者:
塚本 泰成さん(世田谷記念病院/理学療法士 主任 離島プロジェクトリーダー)

萩原 真梨奈さん(平成横浜病院/理学療法士 離島プロジェクトメンバー)

宮本 透子さん(緑成会病院/理学療法士 離島プロジェクトメンバー)

石川 蒼馬さん(印西総合病院/理学療法士 離島プロジェクトメンバー)

モデレーター:佐々木 恭介さん (多摩川病院/理学療法士 部長代理)


左から萩原さん、石川さん、塚本さん、宮本さん、佐々木さん。

〈登壇者プロフィール〉

塚本 泰成(つかもと・やすなり) さん
理学療法士(認定理学療法士:運動器)。世田谷記念病院入職後、5年間回復期病棟、地域包括ケア病棟、訪問、外来でのリハビリテーションを中心に行い、施設や整形外科クリニックでのリハビリテーションも経験。2022年6月~2023年5月に社会福祉法人利島村社会福祉協議会に出向。離島プロジェクトの立ち上げを担い、出向終了後も、離島での経験を生かして離島プロジェクトリーダーの立ち位置としてプロジェクトに関わる。
note:https://note.com/hmw_toshima
※現在出向中のスタッフのnoteも、一緒に掲載されています。(以下同)

萩原 真梨奈(はぎわら・まりな)さん
理学療法士。平成横浜病院入職後、4年間回復期病棟、1年間地域包括ケア病棟でのリハビリテーションを中心に行い、2023年6月~2024年5月末まで利島村社会福祉協議会に出向。前年度から実施していた島民へのリハビリテーションと、定期的な健康教室の開催を開始した。
note:https://note.com/hmw_toshima

宮本 透子(みやもと・とうこ)さん
理学療法士。緑成会病院入職後、3年間療養病棟、訪問、外来でのリハビリテーションを中心に行い、2023年2月~2024年5月末まで御蔵島社会福祉協議会に出向。島民へのリハビリテーションを開始し、健康イベント開催や教育現場への参入などに携わる。
note:https://note.com/hmw_mikura

石川 蒼馬(いしかわ・そうま)さん
理学療法士(認定理学療法士:脳卒中)。印西総合病院入職後、2年間回復期病棟、3年間医療療養病棟に所属。2023年6月~2024年5月末まで青ヶ島村地域包括支援センターに出向。地域包括支援センター立ち上げ役を担い、村民へのリハビリテーションの開始や定期的な健康講座の開催、また転倒骨折予防教室の整備などを行った。
note:https://note.com/hmw_aoga


離島のリハビリ奮闘記

第4回目のセミナーは、「島の合宿所」(兵庫県淡路市)からオンラインにて配信されました。

「島の合宿所」は、グループが運営する就労継続支援B型施設「ココロネ淡路」の利用者さんが、淡路島らしい自然の中で働ける場所を作ることを目的として建設されました。合宿所の掃除などは利用者さんたちが丁寧に行っています。
この合宿所は、グループ職員の福利厚生施設として、チームビルディングのための合宿などに活用されています。

島の合宿所

ココロネ淡路

豊かな自然と海が一望できるこの合宿所で、焚火を囲みながらセミナーが始まりました。


利島で島民や行政とシームレスにつながりながら
地域に求められるリハビリテーションを模索


セミナーのトップバッター講師を務めたのは、離島プロジェクトの一番最初の参加者である、利島で活動した塚本さんです。
塚本さんは利島の風土や特徴などを丁寧に説明し、人口が少ない離島では、セラピスト一人が住民に与える影響力がとても大きいと話しました。

島民は、身体についての学びに関心を寄せる人が多く、塚本さんが実施するリハビリテーションや講習会などに熱心に耳を傾け、取り組んでいました。
一方で、医療資源が限られている地域だからこそ、「リハビリ職が一人しかいない難しさも痛感した」と話しました。

また、病院勤務の場合は機能面を診ることが多かったものの、離島では専門職の視点だけでなく、住民や行政の視点を持ってリハビリテーションに取り組むことも重要となります。
離島は都会と比べて、島民と行政とのつながりが強く、島の行政が発信する情報などはすぐに島民へ広がります。そのため、塚本さんは専門職の枠を超えてリハビリテーションのための広報にも力を入れ、島民・行政とシームレスにつながるように工夫し、島民と広く深く関わり合うための活動を進めました。
これらをすべて自分の手で成し遂げたことは「とてもいい経験になった」と感想を述べました。

島民と日常的に関わり合い、島の生活を肌で感じながら過ごしたことで、「本当の意味で地域で求められるリハビリとは何かを学べた」と伝えました。

セミナーで使用されたスライドの一部。塚本さんは専門職として、また、島で暮らす一人として島民と接して活動しました。島のみなさんから魚や野菜をお裾分けしてもらったり、釣りや食事に誘ってもらったりと、心温まる交流がたくさんあったそうです。


利島で開いた「健康教室」を通して
自ら企画・実行する難しさと手応えを実感


続いて、塚本さんの後任として利島で活動を行った萩原さんが話しました。萩原さんは塚本さんと同様に島の魅力を説明した後、島の地形についても触れ、利島は御蔵島、青ヶ島と同様に急坂が多く、車椅子などは使えない環境だと述べました。

萩原さんは出向前の病院勤務では、患者さんと「退院後にご自宅でどのような環境で過ごしたいか」を話し合い、目標を定めてリハビリテーションを実施していましたが、患者さんの実際の生活を見たわけではないので、「想像の範囲で行っている部分が大きかった」と述べました。
しかし利島では、島民の暮らしを間近で見て、島民の声もしっかり聞くことができたため、島のリアルな生活に即したリハビリテーションを考えることができました。

萩原さんが、この利島で新たに挑戦したのは「健康教室」です。所属する平成横浜病院でも健康教室が実施されていたため、平成横浜病院へ見学に行き、良い案を利島に持ち帰って周りと話し合い、企画・実践しました。健康教室は若い世代の関心も引き、高齢者に限らず、幅広い世代が参加できる教室の開催も実行しました。

こうした経験を通して、自ら考えて企画し、実践する力が身についたと話しました。

セミナーで使用されたスライドの一部。「健康教室」は、最初はうまくいかない部分があったものの、島民に支えられて実施できたとのこと。島での生活は始終、島民の温かさに救われることが多かったのだそう。


御蔵島で老若男女と関わり、地域に根ざした活動を実践


御蔵島の活動報告は、約1年4カ月と長めに出向した宮本さんが行いました。御蔵島の集落は利島、青ヶ島と同様に島内に一カ所しかなく、そこに学校や病院、商店など生活のすべての機関が集まっています。

島でのリハビリテーションは、訪問リハビリやデイサービスでの個別リハビリなどをメインに行いつつ、島民のニーズに合わせたリハビリテーションも新たに考えていきました。そこで宮本さんは「こういうことをやってみるといいのでは」と思いついても、それを自らが動かなければ、何も始められないことを痛感しました。

宮本さんは精力的に活動を進め、島民が主体となって体操する教室を開催したり、小・中学生へ学校の集会の場で、体の機能について話す機会を得たりしました。出向前は仕事で子どもと接する機会があまりなかったため、「教育現場に関われたことは、プラスの経験になった」と述べました。

また、島民は島の伝統文化を大事にしており、次世代へつなぐ取り組みも活発に実施していました。宮本さんは島の行事などに積極的に参加し、島民の「島のために一丸となる姿勢」に触れながら「地域に根ざす」重要性を実感したと伝えました。

セミナーで使用されたスライドの一部。宮本さんが島を離れる日、ヘリポートに島民がたくさん見送りに来てくれたとのこと。今回のセミナー講師となった4人は、誰もが島民から手厚い歓迎・歓送を受け、島民の温かな人柄に感激したそうです。


青ヶ島で痛感した「一人一人としっかり向き合うリハビリテーション」の必要性


伊豆諸島の最南端に位置する青ヶ島へは、石川さんが出向しました。石川さんは島の自然の魅力や食文化などを説明した後に、リハビリ職として実践した例を紹介しました。

利島、御蔵島と同じように、青ヶ島は介護保険などのサービスがあまり整っていないため、島民が自身で自分の健康を守っていくことが重要です。そのため、石川さんは介護予防・健康増進のために、転倒骨折予防教室や、島民全体の健康促進のための運動前ケガ予防教室、体力測定会などを実施しました。

セミナーで使用されたスライドの一部。高齢者はもちろん、幅広い年代の健康増進のために教室を開きました。老若男女との交流を深めながら、島の文化にも触れていったそうです。

石川さんは青ヶ島での生活を通じて、「人として成長できた」と感じることを2点挙げました。一つは島の歴史や島踊り・島唄などの継承を大事にする島民の姿勢を目の当たりにし、文化を守る大切さを知ったということです。
二つ目は、島民約160名という小規模人口だからこそ「目の前の困っている人と向き合うことができた」ということです。
石川さんは、これまでも病院で患者さん・利用者さんの状態をより良くしていきたいと考えてきましたが、青ヶ島での経験を通じて、「結局は目の前の人としっかり向き合うことが大切なんだ」と感じたことを伝えました。

石川さんが所属する印西総合病院のデイケアの利用者さんは約160名おり、青ヶ島の島民とほぼ同じ人数です。そのため、「青ヶ島と同様に、一人一人としっかり向き合うリハビリテーションを行い、もっと良いリハビリテーションを実践していくためにどうすればいいか、今後も追求していきたい」と述べました。


離島で暮らしたからこそわかった
人と人とのつながりを育む大切さ


最後にモデレーター佐々木さんが、離島になじんで生活するのは簡単なことではなかっただろうと思うと伝え、塚本さんたち4名に「島の人たちとのコミュニケーションはどのように図っていましたか」と質問を投げかけました。

4名は、島内のサークル活動のような集まりや島のイベントをはじめ、誘いを受けた飲食の場など、島民とつながる可能性がある場所にはどこへでも、積極的に参加したと話しました。
島の人たちはふれあいが増すごとに、温かく受け入れてくれるようになり、同じ「住民」として接してくれるようになったとのことです。
日常的な交流や他愛のない会話から、島民に必要なリハビリテーションを考える糸口も見つけられた、と話しました。

セミナーの最後には、それぞれが島の特産品を紹介しながら、島の魅力を愛情たっぷりにアピールしました。


HMW大学は次回、グループが運営する障がい者支援施設「PALETTE」(大阪府大阪市淀川区)の取り組みを「個性の色が交ざり合い新たな可能性が生まれる場所「PALETTE」の魅力」をテーマに開催します。
開催日は2024年9月13日(金)です。興味のある方はぜひ、ご参加ください!

PALETTEについて