【トークセッション】グループ新人研修「スタッフの専門性を拡張しチームで成長し続けるために」(前編)
新緑がまぶしい季節になりました。この春、新社会人になったみなさんは、職場の雰囲気に慣れてきたころでしょうか?
平成医療福祉グループでは、4月1日付けで全国のグループ病院・施設に266名が入職しました。グループでは毎年、グループ全体で行う新人研修を約1週間実施しています。
今年の研修はグループミッション「じぶんを生きる を みんなのものに」を実現するための5つのアクション(※1)を一つずつ紐解きながら、グループの医療福祉の考え方や、アクションに即した実際の取り組みの紹介、そして実践に際しての心構えなどを学ぶというプログラムをオンライン配信で実施しました。
今回はそのなかから、アクション4「スタッフの専門性を拡張しチームで成長し続ける」(※2)について、グループ職員が講師となり、トークセッション形式で行った研修の様子を前・後編に分けてお伝えします。
※1
※2
トークセッション
2024年4月5日(金)実施
テーマ:アクション4「スタッフの専門性を拡張しチームで成長し続ける」
平成医療福祉グループでは、医療現場において「チームの質」がそのまま病院の質に直結すると考え、チーム医療を重要視しています。チーム医療はなぜ大事なのか、良いチーム医療を実現するにはどうすればよいのかなどについて、グループ各部門で活躍する経験豊富な6名の職員が新人のみなさんにトークセッションを通して伝えました。
【トークセッションメンバー】
「良いチーム医療」「悪いチーム医療」ってなんだろう?
天辰:良いチーム医療とは何でしょうか? 新人のみなさんは、これから現場に入っていくことになりますが、これを実践するのはとても難しいことです。
病院は一般企業とは違い、医師や看護師など10種類以上の専門職が集まっており、見えないヒエラルキー(階層)構造が成立しやすい職場です。ヒエラルキーに従ってそれぞれの役割が決まってしまったり、えらそうな態度をとる人がいたり、逆にその状況に甘んじて指示待ちになる人がいるなど、こういうことは実際に現場で起きているのかなと思っています。
新人のみなさんにとって、少しでも良いチーム医療作りへの意識を高めるアドバイスができればと思い、経験豊富な職員のみんなで話していきたいと思います。
一言で「チーム医療」といっても、とても広いテーマなので、四つのセッションに分けて話していきます。一つ目は、私たちの経験のなかから、「良いチーム医療の例」と「悪いチーム医療の例」について話していきましょう。では堤さんからどうぞ。
堤:栄養部門の私からは「食事」の観点から話します。
私たち管理栄養士は、「患者さんがうれしいと思える食事を提供しよう」と考えていますが、どうしても「栄養」だけにフォーカスしがちなんですね。しかし、病棟で多職種のスタッフと会話を交わせば、別の視点が取り入れられます。言語聴覚士(以降ST)だったら、「この人は嚥下(えんげ)状態が良くないから、こうしたほうが食べやすくなる」とか、薬剤師だったら「薬の副作用が元となって、食欲が減っている」など、さまざまな情報がもらえるので、患者さんの状態を加味したうえで、栄養のことを考えらえるようになります。こうした連携が自然と取れているのが、食事における良いチーム医療の例です。
一方で「悪い」例としては、多職種連携をしようとする意思がまったくない状態だと思います。例えば「食事」に関する判断に関して、別の職種の人が「それは管理栄養士の仕事だから、自分とは関係ない」と思うような状況ですね。また、食事の介助の場面で、介護士が緊急の呼び出しなどを受けて、その場からいなくなることもありますが、そこに居合わせた別の職種が「自分の役目ではない」といなくなるような状態も、悪い例ですね。
天辰:今の話に、小林さんが大きくうなずいてますね。介護部門から小林さんはどう考えていますか。
小林:「食事」という観点で言えば、栄養や嚥下のことなど、とても大事です。それと同じように、「食べたい」という意欲を引き出すことも重要です。今、そのために介護部でも患者さんが「楽しく食べられる環境」を整えていくことにも力を入れています。そこを介護職だけではなく、リハビリテーション部門(以降リハ)の人たちや看護師など、多職種で話し合って進められたらいいなと考えています。
天辰:二人が話したように、いろんな場面でさまざまな職種の人が会話して、こまめに連携することは大事ですよね。もちろんカンファレンスもありますが、それ以外の場でも普段からコミュニケーションを取ることが重要。加藤さん、看護の方たちの場合はどうでしょう?
加藤:私が経験した良いチーム医療の例として印象に残っているのは、ある終末期の患者さんの対応です。この方は「一瞬でもいいから、家に帰りたい」と望まれていました。それを実現するために、医師、看護師、リハ、介護士などみんなが集まって話し合い、地域連携のソーシャルワーカーにも相談して、帰宅させることができました。その患者さんは帰宅の翌日に自宅で亡くなられましたが、ご本人の希望をかなえられてよかったとみんなで実感でき、こうしたチーム医療の成功体験は、次の良いチーム医療にもつながると思えました。
悪い例としては、先ほどの堤さんの話にも通じますが、現場で何か問題が起きた時、「あれは〇〇が間違っていた」など、他職種に責任を押しつけることが起こる状況ですね。
チームワークを図るうえで、コミュニケーションが欠かせない
天辰:やはり職種間の境界を超えるのはとても大事なことであって、一方で実践するのはなかなか簡単ではないなと思いますね。秋田さん、薬剤師はどうでしょうか。
秋田:薬剤師はカンファレンスに出席したり、回診にも出ていますが、やはりそのなかで薬剤師だけで判断することが難しい状況が多くあります。ほかの職種と話し合うことは本当に大切で、日頃からお互いに信頼できる関係性が築かれていたら、より話がしやすいし、頼り合えるようになると考えています。
例えば患者さんの状態に薬だけでの対応を考えるのではなく、食事の面からできることはないかと管理栄養士に聞いたり、睡眠薬を処方した患者さんがリハビリに影響が出ていないかをリハに聞いたりと、そのように話せるのが良いチーム医療だと思います。
悪い例としては、どの職種も、「言いたいことがあっても否定されるから言わない」ような職場環境にあれば、誰も発言しなくなります。だからチーム全体で発言できる環境を築くのは大事だと思います。
天辰:これは「あるある」な話ですね。例えば病棟で「あの医師、話しかけづらそうだからやめておこう」と、別の職種が思うような状況ですよね。
加藤:看護師とかリハって、比較的たくさんの人数が病棟にいますが、それに対して医師は1人、2人なんですよね。それで常に動き回っている医師の後ろ姿を見ると、話しかけるのに勇気がいる……というのは、看護師のなかでもよくある話です。そういう状況をどうすれば打破できるかですよね。
天辰:このあたりの対応について、栄養部で工夫していることなどありますか?
堤:今、管理栄養士は積極的に病棟に出るようにしています。グループでは施設の食事を直営で作っているので、厨房が忙しくなる時間帯は管理栄養士も厨房内の作業を手伝うことが多いんですが、できるだけ病棟で業務ができる体制にしているところです。その理由の一つは、ほかの職種が食事のことで相談したい時に、必ずそこにいて、答えられるようにするためです。もう一つは、病棟で多職種と同じ時間を過ごすうちに周りの動きがよくわかるようになるからです。それが他職種とうまくコミュニケーションを取ることにもつながると考えています。
天辰:大事なポイントを言っていただきましたね。チームワークを図るうえで課題になることの一つには単純な距離の壁みたいなものがあります。もう一つは地位の壁というか、もともと各自が持つ知識の壁みたいなものがあって、それらが話しかけづらさを生み出していると思います。
だから現場に出て物理的な距離を縮めるというのは話しかけやすさを生み出します。私たちの業務は最終的に患者さんへ還元するものなので、業務のメインとなる場所はやはり「病棟」であってほしいと思います。暇があれば現場へ出る、というのは新人のみなさんにもぜひ、意識してもらいたいです。
「良いチーム医療」に向けて、どんな環境作りが必要か
天辰:次のテーマは、良いチーム医療を実現するために必要な環境作りについて。まだ口を開いていないリハの池村さん、どうお考えでしょうか。
池村:私に指名が来ないなと思って、嫌われているのかと思ってました(笑)
一同:(笑)
池村:このテーマについて「環境」というか、「雰囲気作り」が重要ではないかなと思います。チームは「人」一人ひとりが作っていくもので、この「人」というのが、医療の現場ではそれぞれ「専門職の人」です。専門職というのは、自分たちは勉強してきた、というプライドを持つ人が多い。これは大事なことでもありますが、そこに固執すると、他職種との壁を作りがちになる場合があります。それだと人と人とのつながりは生まれにくいですよね。
今日参加されているみなさんも、ちょっと想像してほしいなと思います。例えば患者さんが病棟内でスタッフステーションの前を通った時、スタッフ同士が無言で目も合わさず、なんとなく暗い雰囲気で働いている様子と、意見交換がなされていて、明るい雰囲気で働く様子を見るのとでは、明らかに患者さんが受ける印象は変わりますよね。後者が人と人とのつながりがうまくできている状態で、これが良いチーム医療作りにつながると思います。
天辰:雰囲気は大事ですよね。あいさつ一つにしても、それがあるだけで話しかけやすいと感じる印象も変わってくると思います。
加藤:私からハード面についての環境作りのことを話します。先ほど池村さんの話にも出た「スタッフステーション」ですが、昔はナースステーションだったこの場所を、私たちのグループでは「スタッフステーション」と呼んでいます。ここは以前は看護師だけが集まる場で、ほかの職種が入りづらい環境になっていたように思います。しかし今は名称を変え、リニューアルした病棟などでは人が集まりやすいスペースに作り変えられて、いろんな職種が出入りするようになりました。そこに多職種で使える大きなテーブルを設置しているんですが、そのなかでも、看護師は看護師同士、リハはリハの人同士で集まって業務をしがちな病院もあるので、今後は他職種が交じって業務を行う環境にしていけたら、と考えています。
オープン時からその状況ができているグループ病院もあるので、そこをモデルにして環境作りを進めていきたいですね。
加藤:それから、これまでは職種ごとに制服が異なっていましたが、グループでは制服の統一も進めています。まだ導入が進んでいない病院もありますが、これも職種間の壁を取り払う一つの方法かなと思います。
天辰:制服統一を導入した当初は、職員のみなさんから抵抗もあったと思います。でも患者さんから見るとどんな制服を着ている人に話しかけられても同じことなんですよね。
たとえ職員が「看護師だからこういうことはできません」「リハだから私の領域ではありません」と言っても、患者さんにとっては誰もが一人の医療人です。
私たちは一医療人として、できることをやる、そして自分では解決できないことはチームで協力して行う、ということが大事かなと思います。その意識を持つという意味では、制服の統一は良いきっかけかなと思います。
患者さんにとってベストな環境をチームで整えていく
天辰:では、環境整備についても少し話しましょう。先ほどの多職種が集まるテーブルについてもそうですが、物が片づいているテーブルのほうが、誰もが空いてる席に座りやすくなります。小さなことでも環境整備の意義は大きいので、これも大事なポイントです。
池村:その話に関連して、思うことがあります。病棟内では、水がこぼれていたり、食べ物がこぼれていたり、というのを見かけることがあるんですね。基本的なことではあるけれど、どの職種であっても、これを率先して片づけられるか、という点はとても大事だと思います。自立歩行が難しい患者さんが通る道に、水や食べ物がこぼれていたら転倒のリスクにつながるわけで、これを見過ごすのは医療人として絶対にNGです。普段から患者さんの危険につながることを予測して行動に移すのは、良いチーム医療に向けての基本的な心構えにもなると思います。
天辰:そうですね、「医療」においてリスクに向き合う、気づくということはとても大事です。では、いったん環境作りに話を戻すと、食事の面ではどうでしょうか? 少しチーム医療から離れる話題かもしませんが、せっかくなので教えてください。
堤:食事環境として、当然、部屋がきれいに整えられているべきだと考えています。池村さんが話したように、水がこぼれたところを拭くというのは、患者さんのリスクを考えた時にもそうですが「おいしく食べる」ためにも大事です。
管理栄養士だけでは、全患者さんの食事環境に気を配るのは難しいため、介護士や看護師とも協力して行っています。それこそ、職種を問わずに気がついた人がやるのがベストだと思います。
天辰:患者さんたちって、食事を楽しみにされている方が本当に多いんですよね。小林さんはこのあたりどうですか?
小林:良い食堂の例として、コロナ禍の前は一つのテーブルに複数人が集まり、箸やスプーンなどの食具はテーブルの真ん中に置いていました。その状況だと、自立度の高い患者さんが、食具に手を伸ばせない患者さんに渡してあげる姿が見られて、患者さんたちに一体感があり、そこが社交の場のようにもなっていたんです。
でも、コロナ禍の影響で感染対策を講じる必要があり、みんなが同じ方向を向いて個食で黙々と食べる、という光景ばかりが見られるようになってしまいました……。
天辰:感染対策から生まれた状況を変えるのはなかなか難しいですよね。せっかく楽しみな食事の時間なのでなんとかしたいですが……これは大事なポイントだし、課題でもあると思います。
では次に秋田さん、薬の管理は、まさに普段からいろんな職種が関わって行っているので、これもチーム医療のための環境作りと関連しているのかなと思います。その点で工夫していることはありますか?
秋田:「患者さんが安全に薬を飲めるように」という対策の一例で、薬の「一包化」についてお話します。一包化とは、患者さんが複数の薬を服用するタイミングごとに一袋ずつパッケージにして渡すことです。朝、昼、夜ごとにパックすることで、薬の飲み忘れや飲み間違い、紛失などが防げます。グループでは、機械を使用して薬を一つの袋にまとめ、病棟の配薬カートに入れて日付や飲むタイミングなどを記述し、間違いが起こらないように工夫しています。これを今、病棟薬剤師が配薬をして、看護師と一緒に確認しながら進めているところです。グループ病院のほとんどでこの方法が浸透しています。
天辰:苦労すること、難しい点などはありますか?
秋田:まず薬剤師が病棟業務にあてる時間を確保しないといけないので、そのために調剤室での業務の効率化を図り、機械化を進めています。それから医師との協力体制も重要ですね。薬の中止や変更が出れば、管理も当然やり直しになります。医師のみで中止・変更を決めるのではなく、薬剤師も一緒に提案しながら決めていくことで、服薬管理のミスも防止できると感じています。
天辰:食事の話に引き続き、薬の例からも話を展開してもらいましたが、これに関連して嚥下についても話しましょう。高齢の方は嚥下障害を起こしやすい傾向にあり、グループでは、嚥下予防や機能の改善に力を入れて取り組んでいます。嚥下の評価は職種によって分かれることもあるので、このあたりはチーム医療のテーマにも取り上げやすいと思います。池村さん、嚥下の取り組みをうまく進めるポイントなどはありますか?
池村:やはり、食べられないと体の回復が遅れることにつながるので、患者さんの食事のシーンを日頃から注視する姿勢が必要だと思います。
患者さんが食事される時にいつもSTや歯科衛生士が側にいるわけではありません。そこにいる人が患者さんを見て「おいしそうに食べてるけど、ちょっと残しちゃったな」という感想で終わるのではなく、「飲み込みにくいから食べられなかったのかもしれない」という視点を持つことが大事です。気づいたら、管理栄養士やSTなどに相談して、ちょっとしたディスカッションを行います。すると「次のカンファレンスに挙げよう」と発展していき、具体的なリハビリや治療につながります。だからまず、「気づく」姿勢が必要です。
天辰:大事な部分ですよね。これに関して堤さんのほうではどうでしょうか?
堤:管理栄養士は、リハに相談することが多いですね。「患者さんがこの形態を食べられる状態にさせてあげたい」と伝えて、そのために必要なリハビリを考えてもらうこともあるし、反対にSTから、「〇〇の形態までしか食べられません」と評価されたら、その範囲でどうやって食べさせられるかを考えます。例えば介護士と協力して、患者さんの好きな食べ物をご家族に持ち込んでもらい、それを厨房で食べられる形態にして提供するなど、工夫しています。
職種によって「食べさせたい」という想いと「リスクがある」という評価と、いろんな考えが入り混じりますが、ここできちんと、いい意味で「言い合える」ことはとても大事だと感じています。
摂食嚥下は一見わかりやすくもあるけれど、見えない部分もあり、何か一つ間違えば大問題につながる場合もあります。だからこそ、多職種で調整していくやりがいがあり、私たちの仕事のなかでも連携が必要になるところだと思います。
天辰:ちょうど今、いい話をしてもらいました。この次に話したいテーマが「なぜチーム医療がうまくいかないのか」です。まさに今の嚥下の話は、チャレンジも必要だけどリスクもあって、多職種で調整していかなければならない、というさまざまな課題があり、他職種の理解が必要な話でした。次はこういった話を進めていこうと思います。
この記事は後編へ続きます。