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【空間プロジェクト】利用者さんと職員の双方が心地よく過ごせるデイサービス空間作り‐Vol.2「みんなの庭」(後編)‐

平成医療福祉グループでは、ミッション「じぶんを生きる を みんなのものに」を掲げています。ミッションを実現するための行動指針(アクション)の一つに「個人の意思とその人らしさを尊重する」(※)があります。今回、この指針に沿う「空間プロジェクト」の取り組み第2弾をご紹介します。

「空間プロジェクト」をスタートしたのは、当グループが運営する、介護老人福祉施設「ヴィラ南本宿」に併設する「平成デイサービスセンター南本宿」(神奈川県横浜市旭区)。プロジェクトの目的は、利用者さんの心が満たされ、職員が気持ちよく働ける、理想のデイサービス空間作りです。

その一環として実施した裏庭の改装について、プロジェクトメンバーのインタビューを交えてご紹介します。

後編では、庭作りにおいての工夫や、完成後の様子、プロジェクトを通してみられた利用者さん・地域の方の変化などについてお伝えします。

※:グループサイト参照

前編はこちら!


利用者さんにも地域の方にも居心地がよいと感じてもらえる庭へ

利用者さん・職員・地域の方という、まさに“みんな”が改装にかかわった「みんなの庭」には、既存の畑を残して、中央に立つ木(ヤマボウシ)の周りをベンチで囲み、誰もが気軽に憩える広場を設けました。また、車椅子も広場へ入りやすくなるよう、随所にバリアフリー対策を施しました。フェンスも撤去し、完成した庭には地域の方が立ち寄るようになり、利用者さんや職員との交流が少しずつ増えているそうです。

公道から見た改装前の庭。
公道から見た改装後の庭。
完成した「みんなの庭」に利用者さんが集まって撮影した記念ショット。

くわしい内容について、ここからプロジェクトメンバーによるインタビューでお伝えします。


プロジェクトメンバーインタビュー

インタビューに答えてくれた、みんなの庭づくりプロジェクトメンバー。左から長岡さん(nata studio)、前田さん、安藤さん、武部さん(nata studio)。

ー 庭の中央に作った「広場」について、ここで利用者さんと地域の方が触れ合うことを想定して設計したのでしょうか。

武部:その目的で作りました。レンガを敷いて、誰もが歩きやすくなるように整備し、利用者さんがより外に出やすくなるようにしました。フェンスもなくなったので、地域の方にもここに気軽に立ち寄ってもらい、施設の人たちとの交流が生まれることを期待しています。そしてもう一つ、ここには「工房広場」としての役割も持たせています。たとえば、ものづくりを行うイベントなどをここで実施して、地域イベントの拠点に使っていただく想定です。イベントを定期的に行うことで、利用者さんや職員が地域の方々とのつながりを深められたらいいなと思っています。

広場のベンチに腰かけて、日向ぼっこをする利用者さんたち。

ー 既存の畑や植物などは残しつつも、植栽などにアレンジが加えられていますね。その意図やポイントを教えてください。

長岡:こちらのデイの畑活動は活発ですし、土に触れる喜びがあるのはとても大事なことだと思うので、畑はそのままにしました。また、中央に立つヤマボウシは庭のシンボル的な存在にもなるので、これを生かして、木の周辺にベンチを作り、みんなの「居場所」となるように設計しました。ベンチからは、畑を眺めることができます。

前田:ヤマボウシには安藤さんが巣箱も作ってくれたんですよ。施設周辺の木々には鳥がたくさんやってくるので、ここにも立ち寄ってくれるとうれしいですね。利用者さんも近所のお子さんにも、楽しんでもらえる要素となればいいですし。それから、安藤さんの提案で、あえて歩きづらい小道も作ってもらいました。

安藤:広場から少し離れた桜の木に向かって、飛び石を打って小道を作ったんですけど、一段ごとに異なる高さをつけて、しっかり下を見ながら注意して歩く必要があるようにしました。この意図としては、バリアフリーに慣れた利用者さんが、職員の手を借りながらも歩きづらい場所をあえて歩くことで、子どもの頃の遊びを思い出すなどの刺激があるのではないか、と思ったからです。

新たに作った小道。
石を歩きづらく配置しています。
ヤマボウシに設置した巣箱。

前田:安藤さんの小道の提案は、事前の打ち合わせにはなかったのですが、私としても同じ考えを持っていたので、その意図にすごく共感しました。
というのも、デイの利用者さんたちは普段は「ご自宅」で過ごし、バリアフリーではなく、バリア(障壁)がある環境で生活されている方もいます。だから少しでも自立した生活を継続するためには、完全バリアフリーというより、不便利な場所に触れることや、その状況をあえて楽しむ要素も必要だと考えていたからです。
もちろん、大事なのはご本人の「選択」なので、興味をもった方に歩いてもらえたらうれしいですね。


地域のみんなのためにある「みんなの庭」を目指して


ー 庭が完成してから、地域の方が立ち寄るようになったと聞いています。

安藤:工事中からあいさつを交わしていた小学生の子たちが、下校途中に、まっ先に庭に入ってきてくれました。早速ベンチに座ったり、庭を探検して楽しんだりしていましたよ。「みんなの庭」の看板も、その子たちが書いてくれたんです。それから親御さんもやってきたり、散歩中の方や犬を連れた方なども立ち寄ったりしていますよね。

下校途中で庭に立ち寄った地域の子どもたちと利用者さんたちとの交流。
子どもたちが手書きした「みんなの庭」の看板が、庭の入口に掲げられています。

前田:利用者さんたちはお子さん好きな方が多いので、子どもたちがやってくると庭にちらほら出て来られます。子どもたちの様子をほほえましそうに見守ったり、ベンチに座って会話したりと、早速、同じ空間に地域の方との自然な交流が生まれています。これはフェンスがあった時には考えられなかったことです。

長岡:プロジェクトの開始時点で、前田さんと「世代を超えたつながりや触れ合いが生まれるようにしたいですね」と話していたので、それが少しずつ実現できてよかったなと思います。


ー 「みんなの庭」が地域にひらかれたことで、みなさんが目指した「地域と施設の境界線をなくす」ことが少しずつ実現できそうですね。

武部:はい。理想に近づいていくことを期待しています。
「地域にひらく」ことの目的は、最初にコンセプトについてお話ししたように、「施設職員と利用者さんの属性を解きたい」という目的を実行するための手段でした。しかし、実はもう一つ、介護老人福祉施設の「存在」を地域に見せていきたいという目的もあるんです。
一般的に介護老人福祉施設は、その中の暮らしが地域側からは見えにくくなっていますが、私たちnata studioは、施設の存在を地域に見えやすくしていったほうがよいと考えていました。誰しもが必ず年を取るので、施設の生活が見えれば、地域の方もいずれやってくる老年期にどんな過ごし方があるのかイメージしやすくなるだろうし、将来的な施設利用を検討するきっかけにもなると思います。もっと大きな話をすれば、施設を見せていくことは、誰かに人生の一つのロールモデルを提供することにもつながるんです。だから空間として「老いる」ということはどういうことなのか、どういう暮らしがあるのかを明示していきたい、と考えていました。

前田:この庭づくりは施設と地域の境界線をなくすための第一歩となりました。
本当の意味で「地域にひらかれた施設」となるためには、これからの「交流」が大切です。地域の方々が、施設で過ごす利用者さんや職員の様子を近くで見て、会話する機会が増えたり、一緒に庭で作業したりする日常を育むことで、「介護」や「認知症」のある暮らしの状況を、より身近に感じてもらえるようになると思います。また、子どもたちも、サービスの受け手である利用者さんが生き生きと庭で活動し、役割をこなす姿などを見れば、利用者さんは支えられる立場であると同時に、頼れる存在であることを知るでしょう。そうして、高齢の方との相互の関係性を自然と築くきっかけが得られればいいなと思います。
世代を超えて支え合う小さな地域社会が、この「みんなの庭」から生まれていってほしいですね。

ー 裏庭の改装について全体を振り返っての感想を、それぞれお願いします。

安藤:こうして振り返ってみると、人の顔ばかりが浮かんできます。ここでの庭作りは、何を植えてどのように手を加えたか、ということよりも、誰とどのように接したかが大事なことだったし、とてもいい経験をさせてもらったと思っています。
休憩時間に、ベンチに座って利用者さんと世間話をするなかで、今と昔の季節の感じ方や認識の違いなどを教わったり、こちらが聞き役になろうとしたつもりが、自分の話を聞いていただくことが多かったりと(笑)みなさんとのコミュニケーションが楽しく、それは豊かな時間を過ごしました。
こうした利用者さんたちとの関係性は、nata studioが目指していた、「職業などの属性を超えること」にもつながっていますよね。それを体感できたと思います。
それから、利用者さん・職員・地域の方との関わりを通して、「知り合い」が増えるということは、その場の居心地が良くなり、自分の居場所が増えていくのだと実感しました。これは老若男女に当てはまる幸福感の一つだと思います。みなさんと対話する時間があったから、多くの人と交流できる庭のかたちができました。

長岡:nata studioはもともと建築設計において「風土」を大切にしてきたのですが、今回はとても「風土的なプロジェクト」になりました。風土というのは、この場合、風土という文字の「土」の部分が施設が持っていた環境や文化を指し、「風」の部分が、フェンスを取り払うなどで、今まで閉じていたものをひらく革新的なアクションを指します。つまり、ベースにあるものと新しい要素がうまく相互作用したからこそ、「みんなの庭」が完成できたと実感しています。地域の一員であるみなさんと一緒に築き上げなければ、これはできなかったでしょう。

武部:私は、今回のプロジェクトは「利用者さんと職員の属性を解きたい」と自らテーマを掲げてスタートしたのですが、実は自分自身が持つ固定観念に気づかされることが多かったです。たとえば、安藤さんには、庭師として仕事を依頼したわけですが、自分が考えていた「庭師」の仕事にとどまらず、地域と施設をつなげる役まで果たしていただきました。前田さんのこともどこかで「施設の仕事をする職員」として見ていましたが、プロジェクトにおいての仕事内容は、自分の想像を超えていました。何より、利用者さんや職員のみなさんが、こんなに主体的に手を動かして参加してくれたのは驚きでした。この経験を通し、さまざまなことに対して、自分の考え方から疑わなければいけないなと、専門家として学ばせていただきました。

長岡:本当に、みなさんから勉強させていただくことが多かったですね。改装は庭の土壌を整えるところから着手しましたが、同時に私自身の意識の土壌も整えることができました。

前田:私もみなさんと同じような想いですが、感想として述べるのは、一歩踏み出すだけで、こんなにも良い変化や成果が得られるんだな、ということです。
プロジェクトを通して、利用者さんもそうですが、現場職員の気持ちや行動に大きな変化が感じられました。開始前、「地域にひらいていく」というテーマに対して、職員が多少抱いていた不安も、いざ始めてみると利用者さんが自発的に参加される姿などをみて、賛同の姿勢に変わっていきましたし、むしろ積極的に日々の活動で庭を活用するようになりました。たとえば、フェンスがなくなって、庭から公道に出られるようになったので、利用者さんと一緒に職員がここを通り、近くのコンビニエンスストアやスーパーへ買い物の練習に行くなどの新しい取り組みも生まれています。
それから、介護老人福祉施設が担う「地域貢献」の役割についても、新しい可能性が見出せました。これまで、施設が地域と接点を持つための手段として、施設側がイベントを開いて地域の方に参加してもらう取り組みなどがありましたが、どこか一過性のものだなと感じることがありました。ですが、この庭づくりを通して、物理的に施設が地域にひらかれるだけでも、日常的に交流が生まれることがわかりました。実際に老若男女が庭に立ち寄るようになり、介護老人福祉施設に感じていたであろう敷居みたいなものがフェンスとともに取り払われたな、と感じています。今後も、「日常的に地域にひらく」ことで、地域の方に「ここに入ってもいいんだ」と思ってもらえる、身近な場所になることを目指したいです。


「みんなの庭づくり」を通して利用者さん・職員に見られた影響について

最後に、「みんなの庭づくり」を経験して、利用者さん・職員には具体的にどのような影響・変化が見られたのか、双方の様子を見守ってきたデイサービス管理者の関水 亜紀子さんに教えてもらいました。

右が関水さん。

ー このプロジェクトをきっかけに、利用者さんが自ら庭に出ることが増えたそうですね。

関水:
ここのデイは、もともと利用者さんの主体性を大事にしていて、外に出たい方は出るし、出たくない方は出ない、というようにご自身の行動は本人の意思に委ねていますが、今回多くの方が庭づくりに興味を持たれていましたね。日々の話題にも庭の話が挙がるくらい、みなさんの生活に「楽しみなこと」として浸透し、刺激も受けていたようです。今日のように撮影が入る日などは、前日に利用者さん自らが庭に出て「キレイにしておかなくちゃ」と掃除をされていたんですよ。

プロジェクトメンバーたちのためにと、掃除に励まれていた利用者さん。

ー 改装工事期間中は毎日がワークショップのようだったとのことですが、その様子などを教えてください。

関水:みなさん、とにかく「作業が楽しい」とおっしゃっていました。作業経験のない利用者さんも職員も、nata studioや安藤さんに教わりながら、ドリルやのこぎりなどの工具を手にして、熱心に取り組まれていましたね。職員のほうが工具をうまく使えなくて、利用者さんに教わる、ということもよくありました(笑)。作業経験をお持ちの利用者さんも、「こういう場がなければ、工具を手にすることがなかった」と、うれしそうに話されていました。それから、nata studioと安藤さんと、ただ単に会話すること自体も楽しみにされていましたね。

ー 職員のみなさんにはどのような影響があったのでしょうか。

関水:職員にも利用者さんにも同じことが言えるのですが、庭に対する意識の向け方が大きく変わったと思います。双方、なにかしらの行動を考える時に「庭」の存在が大きくなったようで、職員は特に、施設内でのイベントを開催する時などは「庭ありき」で提案するようになりました。
昨年秋には、庭の完成後にお茶会のイベントを開き、利用者さんが抹茶を立ててお茶菓子も用意し、みんなで楽しい時間を過ごしたんですよ。この空間を生かそうという意識は高まっていますね。おかげで、畑活動も、以前にも増して活性化しています。

ー 庭が完成してから、みなさんはどのように過ごされていますか。

関水:やはり、あれからも庭に出られる利用者さんは多いですね。庭は季節も感じられるし、「気持ちいいね」とよく話されています。安藤さんが、庭の植物の写真と名前を載せたリストを作成してくれたのですが、それを手にして利用者さんが庭を散策し、「この名前はなんだろう」と調べている姿もちらほら見かけます。楽しみの一つが増えたようですね。
それから、近所の子どもたちが立ち寄るようになったので、お子さんを見かけると外に出られる方が増えました。地域の大人の方も話しかけてくれるようになったので、今まではなかった会話が生まれ、交流が育まれています。

工事期間中、利用者さんたち・職員とプロジェクトメンバーで庭で調理し、みんなで食したこともありました。
庭で開かれたお茶会の様子。

「みんなの庭」は、利用者さん・職員・地域の人という属性の垣根を超える場として、今後ますます地域へひらかれていきます。

nata studioの施設での場づくりや幸せ空間プロデュースチームの活動は、今後も続きます。次回も、空間プロジェクトの進捗をお伝えします。ぜひご期待ください!


〈平成デイサービスセンター南本宿〉
平成デイサービスセンター南本宿は「その人らしさ」を支え、誰もが❝ここに通いたくなる❞デイサービスを目指しています。そのために、利用者さんの自己決定を尊重し、ご自身で選んでいただけるサービスの提供を心がけています。理学療法士が個々に合ったプランを立案する機能訓練や入浴、食事、余暇活動などをご用意し、ご自分らしく楽しく過ごせるようにお手伝いします。

〈ヴィラ南本宿〉
ヴィラ南本宿は、特別養護老人ホーム、ショートステイ、デイサービスの三つの介護保健サービスを提供しています。「安心」「安全」「笑顔」をキーワードとして、家庭的な雰囲気のなかで、利用者さんの自立した生活を支援し、身体機能の維持、生きがいづくりのお手伝いをいたします。

TEL:045-351-7500
住所:〒241-0833 神奈川県横浜市旭区南本宿町109-1


空間プロジェクト「みんなの庭作り」の取り組みが、NHKで紹介されました!

2023年秋にヴィラ南本宿の裏庭で実施した改装工事のワークショップの様子を、NHKが取材し「首都圏ネットワーク」で放送されました。

詳細は、下記よりご覧ください
https://www3.nhk.or.jp/shutoken-news/20231025/1000098522.html

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