HMW大学セミナーレポート♯3「ケアするまちをデザインする」
平成医療福祉グループは主に職員の視野の拡大を目的とし、オンラインセミナー「HMW大学」を開催しています。
今回は2024年6月28日(金)に開催された、第3回目のセミナーレポートをお届けします!
セミナーレポート第3回
2024年6月28日(金)開催
講師:守本 陽一さん(一般社団法人ケアと暮らしの編集社 代表理事)
モデレーター:前川 沙緒里さん(平成医療福祉グループ 介護福祉事業部 部長)
〈プロフィール〉
守本 陽一(もりもと・よういち)さん
1993年神奈川県生まれ。医師。一般社団法人ケアと暮らしの編集社 代表理事。
京都芸術大学大学院修了。自治医科大学在学中から地域診断やケアとまちづくりに関する活動を行う。総合診療医として病院勤務の傍ら、一般社団法人ケアと暮らしの編集社を設立。図書館型地域共生拠点「本と暮らしのあるところだいかい文庫」を運営。医療・介護・福祉・デザイン・アートとまちづくりを掛け合わせた活動を展開。保健所で医療政策や社会的処方モデル事業等の市町村支援に従事。まちづくり功労者国土交通省大臣表彰、グッドデザイン賞受賞。
共著に「ケアとまちづくり、ときどきアート(中外医学社)」「社会的処方(学芸出版社)」など。
ケアするまちをデザインする
守本さんは、兵庫県豊岡市を主なフィールドとし、ケアとまちづくり、社会的処方(医療従事者が患者・地域住民の健康を支えるために、その問題解決として医薬品や治療を施すのではなく、コミュニティー活動や地域とのつながりを処方して問題を解決すること)に取り組み、まち全体を健康にしていく活動を行っています。
今回のセミナーでは「ケアするまちをデザインする」をテーマに、「孤独」をキーポイントとして話を始め、「孤立と孤独」の違いから説明しました。「孤立」は「つながりがない」という客観的な状況を指し、「孤独」は「つながりがないと感じる」という主観的な痛みを指します。
孤独は、一般的に良くないものとして認識されていますが、医療的視点からも「社会的な健康リスク」になると考えられており、さまざまな研究によって、脳卒中や認知症、うつ病のリスクを高める要因となることがわかっています。
守本さんは地域作りにおいて、この孤独感を解消することが重要であると強調し、そのために自身が行ってきた取り組みを紹介しました。
「YATAI CAFE」と「本と暮らしのあるところ だいかい文庫」の取り組み
守本さんの代表的な活動の一つは、「YATAI CAFE」です。これは医師や看護師などの医療従事者が屋台を引いて地域を回り、コーヒーを配りながら地域の人と話をするという取り組みです。地域の人が、屋台の店員と話していたら、実は医者だったという、日常生活での医療との偶然の出会いをデザインしました。
守本さんたち運営側は、この屋台の場を「小規模多機能な公共空間」と呼んでいます。この場は子どもから高齢者までが自然と集まってくる空間となるだけでなく、地域住民の健康相談に乗る場にもなり、屋台を引きながら地域の資源を見つけ、訪れた人とコミュニティーをつなげる社会的処方も行っています。
こうした「程よくみんなで集まれる場」を、固定して持つとおもしろいだろう、と考えて、さらに「本と暮らしのあるところ だいかい文庫」(以降、だいかい文庫)の取り組みも始めました。だいかい文庫は、一箱本棚オーナーが月々定額料金で本棚をレンタルして地域住民に本の貸し出しをするほか、カフェの営業や福祉・ケア・医療などの相談も行う図書館のような場です。
だいかい文庫には、単純に本が好きで立ち寄る人のほかに、精神疾患がある人や失業中の人、学校になじめない人などさまざまな事情を持つ人も立ち寄り、自身の「居場所」として利用する人が多くいます。
また、常駐の保健師や医療福祉の専門職スタッフが、週に2回ほど「居場所の相談所」も開いています。「こんな小さな悩みを、どこに相談すればいいんだろう」と思っている人の声も、スタッフが「解決できないかもしれないけれど、一緒に考える」というスタンスで受け取り、病気や職場、家庭の悩み、引きこもりや不登校など、さまざまな相談が寄せられています。
だいかい文庫に訪れて、初回から相談するのはハードルが高すぎる、という人も、何度か通ううちに次第に相談できるようになるケースも多いため、守本さんは「こうした、つながり続けることも一つの支援となる」と伝えました。さらに「伴走型支援」という言葉にあてまはるように、「ただ支援を押し付けるのではなく、まず一緒にいて、そのなかで信頼を獲得して伴走していくことが大事であり、図書館という場所はそれが自然にできる場である」という考えを述べました。
最後に守本さんは、「ケア」は、もともと家族や地域のみんななどで行っていたけれども、時代が進むにつれて、いつしか「専門職の仕事」となり、市民の手でやるものではないと認識されるようになったのではないか、と話し、「ケア」についての考えを以下のように述べました。
「ケアと暮らしが分断されたことが、生きづらさや孤独の原因になっていると感じます。私たちが運営するケアと暮らしの編集社という法人名には、暮らしの中でケアを取り戻し、誰もが生きていることが肯定される地域社会を目指す意味を込めました。
ケアとは寄り添うことであり、生を肯定する営みだと思います。困難を抱えた人たちが、その生き方を含めて肯定されることが大事です。
こうしたケアを実行できる地域を作るために、専門職だけでなく、市民一人一人の協力が重要です。市民を専門職がサポ―トし、互いに強みを生かし合えば、ケアするまちづくりが進められると思います」。
HMW大学は次回、グループが運営する障がい者支援施設「PALETTE」(大阪府大阪市淀川区)の取り組みを「個性の色が交ざり合い新たな可能性が生まれる場所「PALETTE」の魅力」をテーマに開催します。
開催日は2024年8月30日(金)です。興味のある方はぜひ、ご参加ください!
PALETTEについて