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【対談インタビュー】おうち診療所 二俣川院長 ✕ 訪問事業部 部長        患者さんの「自分らしく生きる」を支えるための在宅医療にかける想い(後編)

平成医療福祉グループでは、誰もが自分らしく生きられる社会の実現を目指し、グループのミッションとして「じぶんを生きる を みんなのものに」を掲げています。

今回、グループミッションに基づき、地域の患者さんの「自分らしく生きる」を支援する訪問診療を行う「おうち診療所 二俣川」(神奈川県横浜市旭区)の木田 和利院長のインタビューをお届けします。
インタビュアーは 天辰 優太訪問事業部 部長です。おうち診療所 二俣川の立ち上げに関わり、院長採用面接から木田院長を知る天辰部長が、木田院長の人となりや訪問診療にかける想いを掘り下げ、おうち診療所の今と未来の展望などについて、語り合いました!

前編はコチラ!


おうち診療所 二俣川
2024年4月1日に開設しました!



患者さんがより良く生きるための訪問診療の実現に、熱い想いを持って取り組んでいる二人です!

写真左:インタビュイー/木田 和利(きだ・かずとし)
おうち診療所 二俣川院長 
専門分野:外科、緩和ケア
急性期病院での勤務を経て、さまざまな地域で訪問診療に携わってきました。
仲間たちとの「飲み会」が好きで、趣味は読書です。

写真右:インタビュアー:天辰 優太(あまたつ・ゆうた)
訪問事業部 部長、経営企画医師
天辰部長についてのくわしい紹介は、こちらをご覧ください!



「医者は黒子でいい」というポリシーを持ち
おうち診療所 二俣川院長に就任

インタビューは「おうち診療所 二俣川」内で行いました。

天辰:木田さんは名古屋や埼玉など、さまざまな地域で管理職を兼ねながら訪問診療医を7年経験し、2024年4月からおうち診療所 二俣川の院長に就任されました。
このグループへ入職しようと思った理由を教えてください。

木田:最初は、平成医療福祉グループがこれから訪問診療・在宅サービスに力を入れていくということを知って、「規模が大きなグループだからこそ、大変そうだな」と感じました。
しかし、この二俣川は高齢で独居の患者さんが多いエリアなので、訪問診療に高い需要がある点に引かれたんです。
そして何より、このグループが病院だけでなく、特別養護老人ホームや訪問看護なども運営し、医療機関や介護機関との連携が図れるという強みを持っていたので、そこに魅力を感じました。
患者さんにとっても地域にとっても、状況に応じて選択肢が持てるのは良いことですし、働くスタッフにも、グループ単位で多職種と連携できることはプラスになると思ったんです。


天辰:私は木田さんの院長面接に立ち会いましたが、そこで「医者は黒子でいいと思う」と話した木田さんの話が印象に残っています。
どのような経験から、この言葉が出てきたのか教えてください。

木田:医師が患者さんにできることって、実はたかが知れていると思うんです。医師が患者さん一人の訪問診療にかけられる時間は、患者さんによって違いますが、週や月に数回、1回につき15分から1時間程度です。
患者さんはほとんどの時間を、介護するご家族やヘルパー、施設職員と過ごします。だから、そうした方々のほうが医師よりも圧倒的に患者さんの情報をお持ちだし、苦労も多いはずです。
患者さんの生活は、医師ありきで回るわけではありません。医師が前に出すぎれば、患者さんとその周りの人たちへ、自分のエゴを押しつけることにつながりかねないので、医師は、患者さんの生活の裏方であるべきだと思っています。
そういう意味で黒子として、患者さんの生活の中で医療を提案し、実行していくことが大事だと考えています。

天辰:同感です。「主役が誰か」というのは大事な部分だと思います。

木田:おうち診療所 二俣川内部でも、やはり医師である私が主役になってはいけません。まだ開設したばかりなので、経験的なものもあるから、自分が周りのスタッフを引っ張る立場にあるけれど、ほかのスタッフが先回りして患者さんの情報伝達やフォローアップなどを行ったり、「こうしたほうがいい」という意見を出してもらったりしていかないといけません。
1、2年を目安にこうした形で進めていけたらいいなと、考えています。

天辰:今の話は、まさにチーム医療の本質的な部分だと思います。グループ病院でも実践したいところです。
病院内でも、やはり医師以外の職種のほうが患者さんと接する時間が長く、情報も多く持っています。けれど、そうした職員が患者さんについて気づくことがあっても、「こんなこと医師に言ってはいけないかもしれない」と思わせてしまう空気があるんですよね。
医師である自分も、そういう空気を作ってしまっているのかもしれません。だから良いチーム医療のためには何が必要か、木田さんが話したことはすごく大事なポイントになると思います。


一個人として患者さんと接したいから、白衣は着ない

天辰:白衣は、医師の権威の象徴のように捉えられることがありますが、木田さんは訪問先で白衣やスクラブを着ませんよね。今日のような格好で訪問診療を行っていますが、それには理由があるんでしょうか。

木田:理由は二つあります。一つは、患者さんによっては「医師が自宅に来ていることを周りに気づかれたくない」と希望される方がいるからです。ご自宅へ向かう車にも、「おうち診療所」と表示されたステッカーはなるべく外すようにしています。

天辰:ステッカーは着脱可能な仕様にしていますもんね。

木田:はい。それからもう一つの理由は、当然、医師としてご自宅へ伺うんですが、自分はあくまで「一個人としてご家庭に介入させていただく」立場であると思っているからです。
白衣を着て伺うと、「医者が来た」と意識する患者さんがいらっしゃり、対個人としての話がスムーズに進まないことがあります。

天辰:特に高齢の方だと、拝まれちゃうこともあるんですよね。

木田:そうなんです。無理して正座する方もいるし、そういうふうで接されると、お互いの間に壁が生じてしまい、本音で話してもらえなくなります。
私は仕事以外でも、人と接する時に「相手の本音をいかに引き出すか」というところを大事に考えていますが、これまでの経験上、私服で向かい合うほうが、本当に思っていることを話していただけます。
だから以前は、患者さんに応じて、1日のなかでも数回着替えることもありました。

天辰:それはどういう理由なのでしょうか。

木田:ご家庭によっては、こちらがジャケットをきちんと羽織ったほうが安心されるとか、よりフランクな雰囲気を好む方には、気が張らないラフな格好をするなど、そういうことを意識していました。

天辰:なるほど。患者さんのご家族も含めて、コミュニケーションがより円滑になる方法として、相手によって着替えていたんですね。

木田:結局、訪問診療において大事なのは「コミュニケーション」であり、それがすべてかなと思っています。患者さんによっては深刻な病状の方もいらっしゃるので、おつきあいできる時間が限られてしまう場合があります。そうした方の本音を、いかに速く引き出せるか、相手の懐に入らせていただくことができるかは、コミュニケーション次第だと思います。
また、会話だけでなく、ご自宅の中の様子からもその方を理解することができます。表彰状が飾られていたり、趣味の道具が置かれていたりするので、これまでの生活の様子を注視しながら、患者さんのアイデンティティを探るように努めています。

天辰:木田さんが来るのを楽しみにしている患者さんもいらっしゃるそうですね。

木田:はい。ちょうど先日、日中は独りで過ごしている、ある患者さんのご家族から「先生みたいにおしゃべりをしてくれる人が来てくれて、それだけで満足しています」というお言葉をいただきました。
その患者さんは認知症とADL(日常生活動作)が少し落ちている比較的軽い状態だったので、ご家族には「何かあった時の、安心のための訪問診療ですが、基本的に8割くらいはご本人とおしゃべりして、元気かどうか確認しています」とお伝えしました。
それに対してご家族は「それがありがたいんです」とお答えくださり、改めて「医者が家に来る」ということよりも「木田が家に来る」と感じていただけることが大事なんだなと思いました。

天辰:木田さんに面接を行った頃、グループではちょうどグループミッションが「じぶんを生きる を みんなのものに」に刷新されたタイミングでした。このミッションには、これまで画一的に行っていた医療の対応を見直し、患者さんやご家族お一人お一人としっかり向き合っていくことが大事だという意味が込められています。
だから、面接の時に今のような話を聞いて、「すごいタイミングでミッションを実践してくれそうな方に出会った」と、感じたのを思い出しました。木田さんのコミュニケーションの姿勢が、グループミッションにすごく合致していると、今改めて思います。


開院から3カ月。地域の方からの認識が高まっていることを実感

天辰:おうち診療所 二俣川が開院してから3カ月(※2024年6月末インタビュー時)が経ちました。ここまでを振り返ってみてどうでしょうか。 患者さんが徐々に増えてきた実感などはありますか。

木田:あっという間の3カ月でしたね。患者さんは想定よりも、ご自宅での看取りや重症な方が多い状況です。患者総数で言えば若干伸び悩んでいるところもありますが、おかげさまで地域の方々に知っていただけているという実感はあります。
ありがたいことに、他施設や訪問看護の方などが、おうち診療所の名前を知り、あいさつに来てくださることが増えました。

天辰:おっしゃる通り、重症な患者さんが多いですよね。エリアにこのニーズがあったと思われるし、この診療所だからお願いできる、という患者さんも増えている印象を受けています。

木田:そうですね。もともと、このエリアには訪問診療医やクリニック、訪問看護が多く存在していて、訪問診療のインフラが整っています。そのなかで、私たちの診療所にしかできないことや、ほかでは難しいというケースの方が集まっている認識があります。
今後は重傷の患者さんはもちろん、それ以外のニーズの患者さんも増やしていきたいですね。

天辰:木田さんは外科出身だから、処置できる範囲が広いですしね。
それから、長く診ることになる患者さんとの関わり方については、どのようなところに魅力を感じていますか。

木田:慢性疾患の患者さんの場合、時間をかけてお互いの関係性を構築できる点が魅力です。年単位で医療的な介入をさせていただけると、家族の一部という言い方はおこがましいけれど、生活の一部の人として、患者さんに認識されやすくなるかなと思います。
それから、患者さんとのやりとりが増えていくと、スタッフのやりがいも増えていきます。患者さんの命に関わる私たちの仕事は、ストレスを感じる場面が少なくないので、患者さんとの関係性に喜びが見い出せることは、スタッフのモチベーション維持にもつながるんです。


グループ施設・職員の連携を深め
横浜エリア全体に医療貢献できる「拠点」を目指す

天辰:グループでは訪問診療において、少し大きな目標があります。グループ関連施設のどの所在エリアにも訪問診療の二-ズがあると思われるので、二俣川のような「おうち診療所」を、さまざまな地域に増やしていこうと考えています。
「おうち診療所 二俣川」は、まさにそのフラッグシップのような存在として、グループが理想とする医療を体現する場となることを目指していきたいと思いますが、木田さんはおうち診療所 二俣川の今後について、どのように考えていますか。

木田:おうち診療所 二俣川の役割は、訪問診療だけではないと思っています。もちろん、二俣川エリアの在宅医療を担うことは大きな責務ですが、横浜エリア全体の医療に関わる役割も担っていると感じています。
この横浜エリアには、グループの医療機関や介護施設もあるので、その連携をおうち診療所がさらに強めていく役目を、もっと果たしていきたいですね。
これは私自身がやっていきたいことでもあって、グループにはたくさんの施設があり、多職種の職員がいるからこそ、患者さんとの関わりだけにとどまらず、各施設・職員同士の交流を広げていきたいと考えています。
そうすることで、もっとこのエリアに医療貢献ができるようになるし、働く人たちのモチベーションアップにもつながると思うんです。

天辰:まさに、おうち診療所 二俣川は横浜エリアでグループの平成横浜病院と特別養護老人ホームとの間に位置し、ちょうどハブとなる場所に開院しました。これは役割的にも位置的にも、今までグループが持っていなかったピースでもありました。
病院や介護施設は、それぞれ視点が異なる部分があるので、おうち診療所というピースが、施設間をつないだり、足りない部分を補完し合う場になっていけばいいなと、私も思っています。


オフの日も、気になるのは患者さんの状態

天辰:最後に、木田さんのプライベートについてもう少し話してもらいましょう。冒頭にも少し出てきましたが、木田さんは飲み会が好きで、「趣味が飲み会」というイメージがあります(笑)。

木田:前ほど量を飲めなくなったので、趣味って言えなくなってしまいました。でも基本、飲み会は好きですね。どちらかというと明るい性格ではないので、飲み会がないと人とあまり交流しないんですよ(笑)。
飲み会は全部プライベートだけれども、仕事仲間との飲み会を通じて、スタッフの日頃の様子や、普段どんなことを思っているかを確かめたり、新たな適性を発見したりするので、ある意味、仕事目線で飲むことが多いです。
だから、仕事の延長線上という言い方が合ってるかもしれません。

天辰:医師でも完全にオン・オフを切り替える人もいますが、なんだか木田さんは、そういうところにも訪問診療に向き合う一面が出ている気がします。

木田:切り替えがあまりできないんですよ。電車とかで移動する時も仕事のことを考えてしまう。オフの時間も、「あの患者さん大丈夫かな?」と思って、メールを1時間に1、2回チェックしちゃうんです。

天辰:そんなに真剣に患者さんと向き合っているとは、患者さんにとっては幸せなことかもしれませんね。

木田:まあ、自分に疲れてしまう時もありますが……。趣味の話に戻すと、読書も好きで、経済系の本は頻繁に読んでいますね。小説は、東野 圭吾氏の作品が好きです。それを読んでいる時は、仕事のことは忘れられますね。

木田院長はオフの日に、本を数冊持ち込んでクラシックホテルなどに泊まり、読書にどっぷり浸かることもあるとのこと。それが生活のオン・オフを切り替える手段の一つだそう。


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おうち診療所 二俣川では、一緒に働く仲間を募集しています!

天辰:おうち診療所 二俣川ではスタッフの採用を行っていますが、木田さんはどのような方が、おうち診療所に向いていると思いますか?

木田:ひと言でいうと「おもしろい人」ですね。患者さんやご家族の懐に入りやすい人材は、そのクリニック自体の強みとなります。本人が特に意識しなくても、相手に「この人、話しやすいな。おもしろい人だな」と思われるような人物を求めています。
医師が診療所の顔になるのではなく、「あの人がいる」と思われるようなスタッフがいるのが理想です。おうち診療所の顔になるような方にお会いしたいですね。

天辰:医療従事者としての専門性やスキルは必須ですが、やはり求められる部分は木田さんが大事にしている「コミュニケーション」能力ですね。おうち診療所 二俣川の取り組みに共感される方に、ご興味を持ってもらえるとうれしいですね。


おうち診療所 二俣川 採用情報


どこか懐かしい風情がある商店街に位置する「おうち診療所 二俣川」。高齢の方や患者さんのご家族が立ち寄られたり、小学生が興味深そうに入口にやって来たりと、自然と交流が育まれています。